ナツメルート後日談短編:砂糖菓子より甘く
夏の強い日差しが肌を刺していた。
日焼け止めを塗っても、刺すような痛みを訴える。
夏の盛りは、容赦なく人々を焼いていく。
そんなある日、ナツメとマリアはスバルの自宅にお邪魔していた。
二階建ての一軒家で、駅からは少し距離がある。
その立地のおかげで、少し安く購入できたと以前スバルが話していた。
「マリアさん、ナツメさん、暑い中いらっしゃいませ!」
「今日はスバル、急な仕事が入っていないんですけど、ゆっくりしていってください」
来客用のスリッパを出しながらマフユが言う。
「マフユに用があって来たから、気にしないでくれ」
「マフユさん、今日は女子会にしませんか」
マリアが控えめに、でもしっかりと自分の意見を差し出す。
ナツメはマフユに目配せして、無言で笑ってみせる。
マフユもそれに笑顔を返した。
「マリアさん、いいですねそれ!男子禁制で、楽しみましょう」
「おい、意味深な言い方をするな」
「ふふ、わざとです」
マリアは二人のやり取りを眺めて、少しだけ笑っていた。
それだけでナツメは今日ここに来て良かったと思えた。
マフユは「守りたい、この笑顔」と呟いて震えている。
「じゃあ、女子会に相応しいお菓子が必要ですね」
「それなら、来る途中で買ってきた。マカロン、可愛いだろ」
「わあ、ありがとうございます!ほんとに可愛い〜」
可愛いものに目がないマフユは、ナツメから手渡されたマカロンに目を輝かせた。
いそいそとお茶の準備をしながらも、マフユはマカロンを何度も振り返る。
そうとう気に入ってくれたらしい。
ナツメとマリアは視線を合わせて苦笑した。
やっとミルクティーとコーヒーを用意したマフユが席につく。
マフユはお気に入りのカップを二人の前に並べてから、マカロンを丁寧に白い小皿にのせていく。
壊れ物を扱うように、慎重な手つきだった。
「綺麗に並べられました」
「マフユさん、器用だね」
「そうですか?嬉しいです」
そう言ってマフユは本当に嬉しそうに笑った。
手元についたマカロンのクリームに気づいて、「ちょっと失礼」と言ってぺろりと舐める。
その姿が、少しだけアキラと重なった。
マリアは無言で目を細める。
「あのね、今日はマフユさんにお礼を言いに来たの」
一通りマカロンを味わってから、ミルクティーを飲みつつマリアは本題を切り出す。
マフユは不思議そうに首を傾げた。
「お礼ですか?」
「そう。スムージーのお礼」
「え、お礼を言われるほどじゃないですよ!実際に作ってみせたわけでもないですし」
「それでも、私たちにはすごく助かることだったから。本当にありがとう」
「今日マカロンを食べられたのも、マフユさんのおかげなの」
「私からも、お礼を言わせてくれ。ありがとうな、マフユ」
マフユは照れたように視線をさまよわせる。
やがてぽつりと呟いた。
「……どういたしまして」
エアコンが効いて快適なはずの室内は、温度が上がったように感じた。
マフユは手をパタパタ振りながら、「今日も暑いですねー」と言っている。
「あー、マフユ。感激してるとこ悪いけど、まだお礼の品もあるんだ」
「お礼の品まで!?そんな、わざわざありがとうございます……」
「私たちが用意したかっただけだから、気にしないで」
「それで、これなんだけど……」
ナツメが紙袋から何かを取り出して、マリアに手渡す。
受け取ったマリアは、形が崩れていないか確認してからマフユに差し出した。
「これ、気に入ってくれるといいんだけど」
「わあ……」
マフユは差し出された物を見つめる。
それはドライフラワーで作られた小ぶりのリースだった。
小さくて、可愛らしい。
マフユはそっと受け取って、手の平にのせた。
色褪せた花々は優しく纏められていて、鮮やかなオレンジのリボンが印象的だった。
「これ、マリアさんの手作りですか?」
「そう。……どうかな?」
「素敵です、すごく嬉しい……」
マフユの声がゆっくりとマリアの心に沈んでいく。
雪解けを迎えた氷の上に、優しく水滴が滲んでいくようだった。
「喜んでもらえて、良かった」
「やっぱりこれで良かっただろ、マリア」
ナツメが意味深にマリアを見つめる。
マリアは気まずそうに、「あれは、冗談だって……」と小声で呟く。
「何の話ですか?」
「こいつ、最初は除草剤渡そうとしてたんだよ」
「ナツメ!」
「っちょ、除草剤って……!」
マフユのツボに入ったらしい。
堪えきれない笑い声が響く。
「マリアさんの、そういうところ、好きですよ」
まだ笑いが収まらないマフユが半笑いで言う。
「うん、リースにして正解だった」
震えるマフユをジト目で眺めながら、マリアが淡々と喋る。
「拗ねるなよ。可愛いなあ」
そんなマリアを見て、ナツメが思わずといった調子で本音をこぼす。
「うあ、ご馳走様です」
マフユは赤面しながら視線を逸らす。
「悪いな、私の妻が可愛くてさ」
ナツメはうろたえることなく、遠慮なく惚気た。
「ナツメ、マフユさんに何言ってるの」
「いいだろ、今日は女子会なんだ。思いっきり惚気たって」
「女子会ってそういうものだっけ……」
「恋バナは定番だろ」
「そ、そうなんだ……」
言い出しっぺでありながら女子会をよく知らないマリアは、あっさり引き下がる。
そんな二人のやり取りを正面から浴びたマフユはといえば。
「この夫婦、マカロンより甘い……」
リースを手の平にのせたまま、どこか満足そうな顔で呟いた。




