ユリカルートif:エピローグ1
ユリカは、自分の部屋の床に座り込んだまま動けなかった。
窓の外は真っ暗だった。
脳裏には、少し前に偶然見てしまった光景が焼き付いている。
公園のベンチ。
マリアの隣に座るナツメ。
向かいで静かに話を聞いていたアキラ。
二人とも、ちゃんとマリアを見ていた。
マリアが嫌がることをしないように。
マリアの意思を踏みにじらないように。
ユリカだけが、自分だけのマリアだとばかり思っていた。
ユリカはゆっくり顔を覆う。
「……嫌になる」
自分で呟いた言葉が、やけに冷たく響いた。
マリアが苦しそうに「無理」と言っていたこと。
「誰も必要ない」と遠ざけたこと。
自分が愛しているのだから、マリアも応えてくれるはずだと勝手に信じていた。
好き。
愛してる。
結婚したい。
そんな言葉を押し付け続けて。
「やめて」
あの時のマリアの声が、急に耳の奥で蘇る。
怖がっていた。
あんな顔、させたかったわけじゃないのに。
ユリカは震える指で、机の引き出しを開けた。
おしゃれな模様が描かれた、古いお菓子の空き箱を取り出す。
何度も開けて、何度も閉じた箱。
中には、古びた折り紙の指輪があった。
銀色の折り紙で作られた、ままごとの指輪。
『ユリカ、お姫様みたいだね』
昔のマリアが笑っていた。
ユリカは指輪を掌に乗せる。
苦しい。
それでも手放せない。
初めて作ってくれた誕生日ケーキのことも覚えている。
形は歪で、クリームも崩れていた。
それでもマリアは疲れた顔で、一生懸命ろうそくを立ててくれた。
『もう一個あるけど、食べる?』
そう言ってくれた。
ユリカにとって、それは世界で一番大事なものだった。
あの頃のマリアは、ちゃんと自分を見てくれていた。
そう思いたくなるたび、胸の奥がぐちゃぐちゃになる。
ユリカはベッドへ倒れ込み、目を閉じる。
脳裏に浮かぶのは、昔のマリアだった。
優しかった声。
細い指。
疲れているのに、無理して笑っていた顔。
本当は苦しかったのだと、今なら分かる。
それなのに。
ユリカは、その記憶を自分の欲望で塗り潰してしまう。
「んっ、マリア、マリアぁ……」
縋るような声が漏れる。
もう届かないと分かっているのに。
脳内のマリアだけが、いつまでも自分に優しい。
現実のマリアは、自分を拒絶した。
でも妄想の中なら違う。
都合のいい幻想の中でだけ、マリアは自分を見捨てない。
マリアはもう、自分を選ばない。
分かっている。
それでも、思い出の中のマリアだけは、何度呼んでも優しかった。
折り紙の指輪が、汗で少しだけ湿っていた。




