↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三十八歳、触れないまま恋をする〜重すぎる愛と、静かな恋の間で~  作者: ail38


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
63/97

ユリカルートif:エピローグ1

ユリカは、自分の部屋の床に座り込んだまま動けなかった。

窓の外は真っ暗だった。

脳裏には、少し前に偶然見てしまった光景が焼き付いている。


公園のベンチ。

マリアの隣に座るナツメ。

向かいで静かに話を聞いていたアキラ。


二人とも、ちゃんとマリアを見ていた。


マリアが嫌がることをしないように。

マリアの意思を踏みにじらないように。


ユリカだけが、自分だけのマリアだとばかり思っていた。

ユリカはゆっくり顔を覆う。


「……嫌になる」


自分で呟いた言葉が、やけに冷たく響いた。


マリアが苦しそうに「無理」と言っていたこと。

「誰も必要ない」と遠ざけたこと。


自分が愛しているのだから、マリアも応えてくれるはずだと勝手に信じていた。


好き。

愛してる。

結婚したい。


そんな言葉を押し付け続けて。


「やめて」


あの時のマリアの声が、急に耳の奥で蘇る。

怖がっていた。

あんな顔、させたかったわけじゃないのに。


ユリカは震える指で、机の引き出しを開けた。

おしゃれな模様が描かれた、古いお菓子の空き箱を取り出す。


何度も開けて、何度も閉じた箱。

中には、古びた折り紙の指輪があった。


銀色の折り紙で作られた、ままごとの指輪。


『ユリカ、お姫様みたいだね』


昔のマリアが笑っていた。

ユリカは指輪を掌に乗せる。


苦しい。

それでも手放せない。


初めて作ってくれた誕生日ケーキのことも覚えている。

形は歪で、クリームも崩れていた。


それでもマリアは疲れた顔で、一生懸命ろうそくを立ててくれた。


『もう一個あるけど、食べる?』


そう言ってくれた。


ユリカにとって、それは世界で一番大事なものだった。


あの頃のマリアは、ちゃんと自分を見てくれていた。

そう思いたくなるたび、胸の奥がぐちゃぐちゃになる。


ユリカはベッドへ倒れ込み、目を閉じる。

脳裏に浮かぶのは、昔のマリアだった。


優しかった声。

細い指。

疲れているのに、無理して笑っていた顔。


本当は苦しかったのだと、今なら分かる。

それなのに。

ユリカは、その記憶を自分の欲望で塗り潰してしまう。


「んっ、マリア、マリアぁ……」


縋るような声が漏れる。

もう届かないと分かっているのに。

脳内のマリアだけが、いつまでも自分に優しい。


現実のマリアは、自分を拒絶した。

でも妄想の中なら違う。

都合のいい幻想の中でだけ、マリアは自分を見捨てない。


マリアはもう、自分を選ばない。

分かっている。

それでも、思い出の中のマリアだけは、何度呼んでも優しかった。


折り紙の指輪が、汗で少しだけ湿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。