モコと眠る夜
何回かあの物々しい食事を終えた後、私自身も忘れていた自分の食事を済ませ、シャワーも済ませた。
後は寝るだけだが、モコはどうするか。
別にバスケットにタオルを詰めて、そこで寝かせてもいいが、今の季節がら、それでは冷えるだろう。
まぁ、もっともらしい事を言ったが、最初から普通にモコとは一緒に寝ようと思っていた。
「モコ、寝るぞー。あんた、寝るのかしらないけど」
タオルの上から抱き上げると、一瞬驚いたように硬くなったが、良い感じに抱きかかえるとすぐにリラックスしたのか、柔らかさが戻る。こんな反応もいちいち可愛いななんて思った。
布団にもぐって、モコをそっと抱きしめる。なんだか遠い昔に、ぬいぐるみを抱きかかえて寝ていたな、なんて感想がよぎる。そんな感じだ。モコは私の胸元にぴたりとくっついて、ふくふくしている。ふわふわだ。
「よーしよし。モコ、あんたが何者か知らないけど、健やかに育てよー」
「…くるるるる」
「聞いてんのかな…まぁ、いっか」
眼を閉じる。モコからトクトクと細かな振動が伝わる。
あ、心臓あるんだな、と思った。
それがなんだか、生命の神秘さを感じさせて、モコもやっぱり生きているんだなと思う。
その日は、すぐに意識は落ち、安らかに眠ることができた。
朝。
目を覚ますと、モコは変わらず私の腕の中にいた。
このこに眠るという概念があるのかは知らないが、まぁ、雑にそうだと思っていてもいいだろう。
そして、今日は自分の食事として作った卵焼きの一部をモコにあげた。
空腹ならみーみー鳴くかと思ったが、モコは特に主張しなかった。
もしかしたら、食事は必須ではないのかもしれない。そんな生物いるかはしらないが。
やはり、あのズゴゴゴゴとやる食事風景は圧巻だった。
あれだけで、モコがただの生き物ではないことが分かる。
でも、撫でてやると相変わらずくるくる言って喜ぶ。可愛い。
モコはというと、自分から動き回ることもなく、ちょこんと鎮座したままだ。
このぶんなら、仕事中、家でバスケットにでもタオルを敷いて置いておけばいいなと思う。
でも、ちょっと心配なので、今日あたりペットカメラでも買って帰ってこよう。
モコに行ってきます、と言ったが、モコは特になにも反応せずであった。
まぁ、いいか。
私の仕事は普通の事務員だ。
それほど重要な仕事もないし、ただ単調な作業のような業務をこなすだけだが、今日はモコの事を考えるだけで、すこし気が安らいだ。いつもより早めに仕事を切り上げて家に帰る。
もちろん、ペットカメラや夕飯の材料も買って。
「モコー、ただいまー」
帰って来た時も、モコは静かにバスケットの中に鎮座していた。
近寄って見てみると、わずかに身体の境界が膨れたりしぼんだりしている。
どうやら、まぁ変わらず生きているらしい。
みゅーみゅーと鳴き声も上げないので、特に切羽詰まった事がある訳でもないようだ。
やはり食事は必須ではないのかもしれない…けど、そこは私の気分だ。
あの食事風景はいまだに慣れないが、モコがそれで成長したりするなら、あげていいだろう。
ペットカメラをささっと設置し終わって、ひとまず私の食事を済ませる。
そして、次にモコの食事。…相変わらず圧巻だ。
それにしても、このこが何なのかは依然として分からない。
どことなく人知を超えた存在のような気配はあるが、いまは何もなければただの毛玉だ。
私はモコを撫でてやりながら考える。
スマホでそれらしい情報がないかも調べてみたが、まぁ、なにもない。
そりゃそうだよなぁと思いながら、結局モコを愛でる作業に移る。
そしてまた、ベッドにモコと沈む。
今日も特に収穫なしだが、モコが育つタイプの何かなら、そのうち分かるだろう。
そんな風に楽観的に考えてもいる私だった。
――みゅーみゅー…みゅー
夜中。真っ暗な部屋で、か細いが、今度は耳に届く確かな音量で目が覚めた。
気が付けば、どうやらモコを手放していたらしい。布団の中。
手を伸ばせばすぐの所で、モコはみゅうみゅう鳴いていた。
「…夜泣きか?」
寝ぼけた頭で出てきた感想がそれである。
とりあえず、モコを再び腕の中に戻し、とんとんと幼子の背を叩くようにして寝かしつける。
「ごめんごめん。よしよし、泣くな、モコ」
「みゅ………」
そっと、たぶんだが、額にあたるだろう位置に、らしくもなく口づけを落とした。
背を叩くのを繰り返しているうちにモコもだんだん静かになり、ようやくまた静寂が戻った。
もしかしてではあるが、本当に夜泣きだったのかもしれない。
まぁ、そりゃ、ゴミ捨て場になんて捨てられてれば、悪夢のひとつくらい見るかもな。
なんて、ぼんやりした頭で思った。そういえば、なんであんなところにいたのだろう。
誰かがごみと間違えて捨てたのか。どうなのか。
「…見た感じ、本当にただの毛玉だもんなぁ…」
まぁ、今はここにちゃんといるからいいだろう。
私が拾わなかったらなんて考えたくもないが、そう思うと、ちゃんと愛情かけて面倒見よう。
そう、改めて思う私なのであった。
ふわふわもこもこ。毛玉と眠る主人公。




