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神々の間で


夢に落ちた礼はというと、何やら白い空間にいることに気が付いた。

そこは、さーっとしたホワイトノイズが流れる、だだっ広い空間だった。


しばらくそのあたりをうろついていると、何やら人だかりを見つけた。

そちらに足を向けると、やがて遺跡のような白い建物の広間であることが分かる。


人だかりは礼に気が付くと、ざわざわと何事かつぶやいている。

なおも近づいていくと、人だかりは綺麗に割れ、その全貌が見えた。


中心に、大きな椅子に腰かけた男が見える。

白髪で、少し老いた様子の、大柄な男だ。



「君が礼かね」



力強い声が、場に響いた。



「そうですが…ここは?」

「神々の間と呼んでいる」

「…神って」



なんの冗談かと思ったが、現に眠りにつく前に居月とそのような話をしていたと思い出す。

ということは、自分は何故か分からないが、神々の元までやってきてしまったという事である。

礼は、「それで?」と続けた。



「さよう。私が君をここまで連れてきた」

「…」

「君が拾った者の正体を、君は知った」

「そうですね」


「君は彼に何を思う」

「どうって…」



その時、人だかりが一気にざわざわと揺れた。

礼が首をかしげると、男が静かに言った。



「…来たか」



礼が振り向くと、そこには見間違えよう事もない、居月が佇んでいた。

居月は、険しい顔で、男を見て、そして礼を見て、そしてまた男を見た。



「ヴァルダノーグ」



人だかり…ならぬ神だかりはより一層ざわざわと揺れた。

恐ろしい、やら、あの邪神が戻って来たやら、おぉ、神よ守り給えやら。

居月は、苦々しいものをこらえる様な顔で、男を見た。



「また、その目で、その名で僕を呼ぶのですね」



男の眼は険しかった。

まるで、目の前の居月が危険極まりない存在だと主張しているかのようだ。


「私は、決めかねている。

お前がまた世界を渾沌に陥れようものなら…また私はお前を討たねばならない」


「そんな事…僕がこれまでどんな思いで生きてきたと思うのですか」

「だが、お前は全てを思い出してしまった。そうだろう」



礼は思った。まるで、憎い気持ちをわざわざ呼び起こすような語りだ。

これまでの居月の行いを、つらつらと、淡々と述べていく男。

居月は、それでもこらえる様に下を見ていた。

そして、それが礼には面白くなかった。



「…居月です」

「む」


「今は、輝夜居月っていう立派な名前があるんです。

聞いていればなんですか。あなたたちが少しでもあのひとに愛を傾けてあげられていたら?

彼はそんなことせずにすんだのに。


確かに、居月のしてきたことは酷い事だったかもしれない。

だけど、あなた達に、居月を責められる権利があるとは思えない。


私が見てきたのは、ただただ愛してもらいたかった。そんなひとりの愛しいひとの姿でした。

あなた達は、そんな事も見ずに、知ろうともせずに、あのひとを突き放したんじゃないの?」


「…」


さーっと、ホワイトノイズだけが響く。

礼は、とっさに、「あ、言ってしまった」と思ったが、後の祭りであった。

思ったより感情の籠って震えていた言葉に、居月までもが呆気に取られて礼を見ている。


…やってしまっただろうか。




ぱちぱちぱち。


その時、拍手の音が響いた。

なにかと思えば、男が己の手を叩き。少しだけ柔らかい表情で礼を見ている。



「そのとおりだ。よくぞ言った」

「…?」


「私は、君の口から、ヴァルダノーグ…いや、居月がどう見えるのか聞きたかった。

だから、呼んだのだ。ここに」

「…という事は?」



男は少しだけ微笑んで、言った。



「すまない。君を試す真似をして」

「…試したんですか?」

「さよう。君の彼への思い、確かに聞き届けた」



神だかりがざわざわと声を上げる。

しかし、とか、いいや、とか、どっちともつかない声ばかりだ。



「静粛に」



その声だけで、場は再び静まる。



「私は、もう、同じ過ちを繰り返したくはないのだ」

「知ったような口をききますね」



居月が、信じられない、というような顔を隠しもせずに言う。

男は「それでもいい」と言った。



「お前は昔のお前とは違う。直接会って、やっとそう思えた」

「…なんで」

「…」

「…なんで、そんなことを今更になって言うんですか」



やりきれない。居月の表情には、そんな感情が浮かんでいた。

今になって言われて、それでどう思えばいい。当然の想いだった。



「すまなかった」



男は、椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。



「…そんな風にされたら、なにも言えないではないですか」



居月は、泣きそうな顔で、やっと絞り出した声で言った。

流石に礼もこれ以上その場に突っ立っているのに耐えかねて、居月の元へ走り寄る。



「…帰ろ、居月」

「はい…。そうしましょう」



やがて、空間はどんどんと真っ白に塗りつぶされ、やがて礼の意識はまたも落ちていった。

最後に居月の温かい抱擁が、礼を包んだ。



「彼を頼んだ」



男の声が、頭に響いた。



主神との対話。言い切った主人公。

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