遅すぎる求婚
はっとして、目が覚めた。
今度こそ、見た夢の内容が消えることはなかった。
そして、礼が起きたと同時に、目の前の居月の瞳が開かれる。
「…おかえり」
「…おかえりなさい」
どちらともなく、そう言った。
時刻は昼前になっていて、仕事は無断欠勤になってしまったが、もう仕方ないだろう。
一日くらいは大目に見てもらいたいものだ。
礼は起き上がろうとしたが、居月に引き留められて動けずに終わる。
抗議しようとしたが、居月のまっすぐな瞳に撃ち抜かれて、さすがに黙った。
「覚えてますか?」
何を、とは言わない。だが、言わんとしていることは分かった。
あの、神の間でのこと以外にはないだろう。
「覚えてる」
「…ありがとう」
「別に。言いたいこと言っただけ」
「それでもです」
「…いいよ」
お互いに、大きく息をつく。
なんだか大変な時間だった。
「仕事は?」
「あとで連絡する」
「では…礼」
「なに?」
「昨日、僕が言った言葉、覚えてます?」
「あー…あー……っと」
礼は、ばつが悪そうに、わずかに頷いて見せた。
愛してる。そんな、居月の告白の言葉だ。
「もう、僕は何も知らない少年ではありません。
愛の意味も、あなたが欲しいのも、全部理解してしまった」
「慣れてしまった私の立場がない」
「それは…すみませんでした」
一拍おいて、礼がクスクスと笑う。
居月は、少しだけ勝手が悪いとばかりに目を伏せた。
しかし、言おうか、言うまいか迷って、結局思い切って言った。
「僕と、結婚、してください」
礼は、ぱちぱちと目をしばたかせた。
「早くない?」
「遅すぎます」
「いや、そこはお付き合いからでは…?」
「それなら、いいんですか?」
「えー…」
「そこははいと言ってください」
「だって、あんたまだ働いてもないよ」
「それは、これから、どうとでも、なります…!」
居月はどうしてもはいと言ってもらいたい。
言ってもらいたいが、煮え切らない礼である。
「言わないと今すぐ口づけしますよ」
礼は、うー…とかあー…とか言っていたものの、結局は諦めた。
そして、目をそらしながら、わずかに頷いた。
「…はい」
結局のところ、居月はやめる気など毛頭なく、礼に柔らかく口づけた。
こうして、邪神はひとりの人間による愛情をもって、新たな生を歩むに至るのだった。
~完~
夢から覚めた二人と、ハッピーエンド。




