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愛しています、けれど


お互いに、酒には強い方ではないためか、割合すぐに酔いは回って来た。

居月は、そのふわふわした感覚に任せて、当時の自分について、語り始める。



「僕は、神々の中でも生まれが特殊なんです。黒い淀みから生まれた。

神々は皆、白い姿なんです。僕だけ、黒。それで、僕は神々から白い眼で見られて育った。

だれも、僕のことなど愛してはくれなかったんです」


「…だれも?」

「だれも」


「生まれが違うだけなのに?神って意外と俗っぽいんだね」

「…全くです」



もう一口、居月は酒をあおった。



「それで、僕は、自らにふさわしい居場所を探しに異界を放浪しました。でも…」

「でも?」

「はぁ…どこも同じ。僕を侵略者だと言って、滅ぼそうとしてきました」


「何もしてないのに?」

「そう。こちらからは何もしていないのに」

「ふぅん…それで、滅ぼした?」



居月は目を閉じて、頷いて見せた。



「おっしゃる通り」

「ふぅん…結構ちゃんと邪神らしい事してたんだね」

「もう…だから言ってるでしょう。僕は邪神だって」


「まだ怖い?」

「…すこしだけ」

「だいぶ、思い出してきた?」

「というより、なじんできました」

「そう」



礼が、すこし安堵したように返す。

居月は居月で、そこは安堵する所なのかと内心苦笑した。



「それで…見かねた主神に殺されました。槍で貫かれて。おそらく、5000年ほど前」

「…あ」

「?」


「夢…見た」



礼が、思い出すように、記憶を絞り出すようにして、頭に手を置く。

そうだ。そういえば、モコの時も、居月が少年姿だった時も、夢を見ていたではないか。

今になってとも思ったが、今になっての方が良かったのかもしれない。



「最初は、槍に貫かれた今の居月の姿。次は一人で立ち尽くしてるあんた。

なんかひどいこと言われてた気がする」


「それは…どうしたんですか」

「モコと被って、その…抱きしめたよ。痛いねって。

あとはうるさい奴らに黙れって怒鳴ったかな」


「あなた…そんな時から」

「なんで忘れてたんだろ」

「僕が言うのもなんですけど…記憶ってそんなものです」

「違いない」



礼も、また一口、酒をあおった。



「それで、なんであんな毛玉に?」

「そこは…復活した最初の姿がそれだったとしか」

「そっかぁ…」

「ちょっと、飲みすぎですよ」


「いや、悪いの神じゃん。あんたも良くなかったけど」

「それは…私もそう言いたいです」

「じゃあ私が聞いたげる。言っちゃえ言っちゃえ」



居月は少し言葉を詰まらせたが、結局は言った。

神へ向けての恨みつらみ。なぜあの時に何もしてくれなかったのか。

最後にあんな顔するくらいならなぜ途中で止めなかったか。

自分だけが悪いと思っていたのか。

だから自分はあんな過ちばかりしてしまったというのに。


そんな言葉がするすると口から吐き出される。



「…神の愚か者。意気地なし。人でなし」



しまいには、陳腐な罵倒の言葉になり、居月は口をつぐんだ。



「もういいの?」

「多少、すっきりしました」

「そう、ならよかった」



礼は、だいぶ酔いが回っている様子で、でもしっかりと居月の眼を見た。

居月も居月でこの酔いに任せて、礼に言ってしまおうかと考えた。

もう、微妙にものを知らない無知な自分ではない。


男女の意味も、結婚の意味も、愛するという事の重さも、全て分かった。



「礼…僕、あなたを愛しています」

「…おうとも、私も愛しているよ?」


「そうじゃなくて…って、もう駄目ですね。飲みすぎです、礼」



もとより酒には弱かったのだろう。

すっかりへべれけになってしまった礼に、居月は内心がっくりした。

とはいえ、こんな酒の入った場でいう事でもなかったか、と諦めた。



「もう寝ましょうね、礼」

「うん。運んでよ、居月」

「いい…ですけど」



もう、居月の方は純真無垢に愛する人と抱きしめあって寝れるはずもなかった。

だが、それを思うと、自分が大人の姿になった時、色々と無茶をやらかした事が思い出されてきて、

いたたまれなくなってしまう。


随分、礼にはひどい事をしたものだ。



「…礼もこんな気持ちだったんでしょうか」



恥じらう気持ちと、いたたまれない気持ち。

そして、どうにかしてやりたいという気持ち。

そのどれもが混ざって、なんとも言えない心地になる。


そっと礼をベッドに寝かせて、自分はソファで眠ろうかと思ったが、

礼から離れるなんてありえないという気持ちがふつふつと湧いて出てくる。

しばらく葛藤していた居月だったが、礼の一言で己の欲に負けた。



「居月、ほら、おいで」

「…わかりました」



酒が入った礼は、厄介であった。

いや、以前の自分なら何も考えず喜んでいたのだろうが。

礼は、少年の時の居月にするように、髪を撫で、額に口づけを落とし、「おやすみ」などと言う。


今の居月はといえば…もう色々とダメになりそうであった。


どうしようもない衝動と戦いながら、しかし礼の寝顔を乱すまいとする。

それから居月がようやく眠れたのは、深夜を回った丑三つ時のことだったそうな。



やっと言えた言葉たち。

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