第70話 固定世界――揺れなき敵
静寂。
風すらない。
―――
「……動かないな」
俺――アルクは小さく呟く。
目の前。
“それ”は、ただ立っている。
―――
人型。
だが。
あまりにも“正確”。
―――
輪郭が一切揺れない。
存在が、完全に“確定している”。
―――
「……気持ち悪い」
リナが言う。
その声には、わずかな違和感が混じっている。
―――
「ここ、全部そうだ」
一拍。
―――
「揺れがない」
―――
つまり。
―――
「分岐が使えない」
―――
今までの戦い方は、封じられた。
―――
「……やってみるか」
―――
一歩、踏み込む。
―――
錬金術を展開。
―――
「分解」
―――
―――
“効かない”。
―――
「……は?」
―――
術式が、触れた瞬間に“弾かれる”。
―――
「……完全拒否か」
―――
「アルク!」
リナが叫ぶ。
―――
その瞬間。
“それ”が動く。
―――
消える。
―――
「……っ!」
―――
次の瞬間。
目の前。
―――
「速っ……!」
―――
反応が間に合わない。
―――
衝撃。
―――
「ぐっ……!」
―――
吹き飛ばされる。
―――
地面に叩きつけられる。
―――
「……マジかよ」
―――
初めてだ。
―――
まともに“当たった”。
―――
「アルク!」
リナが駆け寄る。
―――
「大丈夫」
立ち上がる。
だが。
―――
「……効いてるな」
―――
ダメージ。
ちゃんとある。
―――
「……普通の戦いか」
―――
だが。
―――
それ以上に問題なのは。
―――
「こっちの攻撃が通らない」
―――
完全に。
―――
「……詰んでないか?」
思わず笑う。
―――
だが。
―――
「……いや」
―――
まだだ。
―――
「アルク」
リナが言う。
―――
「見えない」
―――
「何が」
―――
「流れが」
―――
その言葉。
重い。
―――
リナの強みは。
“流れを読むこと”。
―――
だが。
―――
それがない。
―――
「……完全に別ルールだな」
―――
その瞬間。
“それ”が再び動く。
―――
今度は。
連続。
―――
消える。
現れる。
消える。
―――
「……っ!」
―――
回避。
だがギリギリ。
―――
「アルク!」
―――
「分かってる!」
―――
だが。
―――
追いつかない。
―――
「……速すぎる」
―――
いや。
―――
違う。
―――
「……“遅れがない”」
―――
無駄がない。
―――
最短。
最適。
―――
完全な動き。
―――
「……なるほどな」
―――
理解する。
―――
「選んでないんだな」
―――
「え?」
リナが見る。
―――
「全部“確定してる”」
―――
つまり。
―――
“迷いがない”。
―――
だから。
―――
「強い」
―――
その瞬間。
また来る。
―――
「……っ!」
―――
今度は受ける。
―――
腕で。
―――
「ぐっ……!」
―――
重い。
―――
だが。
―――
「捕まえた」
―――
一瞬。
掴む。
―――
「……!」
―――
その感触。
―――
「……硬いな」
―――
完全に固定されている。
―――
だが。
―――
「ゼロじゃない」
―――
ほんのわずか。
―――
「リナ!」
―――
「うん!」
―――
その瞬間。
リナが動く。
―――
「“定義”を見る」
―――
流れがないなら。
―――
別のものを見る。
―――
「……あった!」
―――
一点。
―――
「ここ、“決められてる”!」
―――
―――
なるほど。
―――
「“決めてるやつ”がいる」
―――
つまり。
―――
完全な固定じゃない。
―――
“固定されている”。
―――
「アルク!」
―――
「そこ!」
―――
「分かった」
―――
一歩。
踏み込む。
―――
錬金術。
―――
「創る」
―――
今度は。
―――
“揺れを発生させる”。
―――
―――
一瞬。
―――
“ズレる”。
―――
「……っ!」
―――
その瞬間。
敵の動きが止まる。
―――
「……今!」
リナが叫ぶ。
―――
「分解!」
―――
―――
“通る”。
―――
わずかだが。
―――
削れる。
―――
「……効いた!」
―――
「なるほどな」
―――
少しだけ笑う。
―――
「完全じゃない」
―――
“揺れを入れれば崩れる”。
―――
「アルク」
リナが言う。
―――
「やり方、見えた」
―――
「ああ」
―――
「“選ばせればいい”」
―――
その瞬間。
再び敵が動く。
―――
だが。
―――
「……さっきより遅いな」
―――
“揺れている”。
―――
「いける」
―――
一歩。
前へ。
―――
「ここからだ」
―――
第三の戦い。
その“答え”が見え始めた。




