第67話 選択の世界――創る者と観る者
静寂。
―――
揺れていた世界が、一瞬だけ止まる。
完全な停止ではない。
だが。
「……落ち着いた」
リナが小さく息を吐く。
その瞳には、無数の光が映っている。
まだ分岐は続いている。
だが、それを“選び続けている”。
―――
「……やったな」
俺――アルクは小さく言う。
「うん」
リナが頷く。
「でも」
一拍。
「まだ終わってない」
―――
空が裂ける。
再び。
だが今度は――
“質”が違う。
―――
「――最終判断」
重なる声。
だが、今までよりも“近い”。
―――
「排除対象、確定」
―――
「……来たな」
―――
空間の向こう。
それは、もう“個体”ではなかった。
―――
巨大な“意思”。
―――
形はない。
だが。
「……全部、あれだ」
空間そのものが、観測者。
―――
「完全体か」
思わず笑う。
―――
「――理解不能」
「収束しない世界」
「管理不能領域」
―――
「危険」
―――
その一言で、空気が変わる。
―――
「削除する」
―――
その瞬間。
世界が“消え始める”。
―――
「……っ!」
地面が抜ける。
空が剥がれる。
存在が薄れる。
―――
「アルク!」
リナの声。
―――
「分かってる」
―――
だが、今までとは違う。
―――
「……範囲が違うな」
―――
全域。
―――
「やる気満々だな」
―――
だが。
―――
「関係ない」
―――
一歩、踏み出す。
―――
錬金術。
―――
「創る」
―――
空間に触れる。
―――
消えかけた世界が、止まる。
―――
「……止まった?」
リナが呟く。
―――
「いや」
―――
「“上書きした”」
―――
観測者の干渉に、干渉する。
―――
「……何をしている」
観測者が問う。
―――
「簡単だ」
―――
「お前のルール、書き換えてる」
―――
沈黙。
―――
「……不可能」
―――
「できてるだろ」
―――
その瞬間。
観測者の“削除”が止まる。
―――
完全ではない。
だが。
―――
「……抵抗確認」
―――
「当然だ」
―――
「ここはもう」
一拍。
―――
「お前の世界じゃない」
―――
その瞬間。
リナが前に出る。
―――
「アルク」
―――
「うん」
―――
そのまま。
自然に隣に立つ。
―――
「一緒にやる」
―――
その言葉。
もう確認じゃない。
―――
“当然”。
―――
「行くぞ」
―――
「うん」
―――
その瞬間。
二人の流れが、完全に重なる。
―――
「……っ!」
観測者が揺れる。
―――
「干渉……増幅」
―――
「止められない」
―――
リナが手を伸ばす。
―――
「選ぶ」
―――
無数の分岐。
その中から。
―――
「これ」
―――
一つを掴む。
―――
その瞬間。
世界が“確定する”。
―――
だが。
―――
固定じゃない。
―――
「……揺れてる」
―――
「それでいい」
俺は言う。
―――
「それが“世界”だ」
―――
観測者が揺れる。
―――
「……矛盾」
―――
「収束しない」
―――
「安定しない」
―――
「それでいい」
―――
「全部、選べばいい」
―――
その瞬間。
錬金術を流す。
―――
「創造」
―――
観測者の構造に直接干渉。
―――
「……っ!」
―――
「なぜだ」
観測者が問う。
―――
「なぜ」
―――
「不安定を許す」
―――
少しだけ、笑う。
―――
「楽しいからだろ」
―――
沈黙。
―――
その言葉。
観測者には理解できない。
―――
「……理解不能」
―――
「そうだろうな」
―――
一歩。
踏み込む。
―――
「お前は“観るだけ”だからな」
―――
「俺たちは違う」
―――
「選ぶ」
―――
「変える」
―――
「創る」
―――
その瞬間。
世界が大きく揺れる。
―――
観測者の構造が崩れる。
―――
「……崩壊」
―――
「維持不能」
―――
「観測終了」
―――
その声が。
初めて。
―――
“敗北”を含む。
―――
「終わりだ」
―――
最後の一撃。
―――
観測者の存在が、完全に崩れる。
―――
静寂。
―――
空が戻る。
地面が戻る。
風が戻る。
―――
「……終わった?」
リナが小さく言う。
―――
「ああ」
―――
「終わった」
―――
その瞬間。
力が抜ける。
―――
リナが寄りかかる。
―――
「……疲れた」
―――
「だな」
―――
少しだけ笑う。
―――
そのまま。
自然に。
―――
触れる。
―――
今までで一番。
深くて。
確かな。
―――
「……これが」
リナが小さく言う。
―――
「答え?」
―――
「ああ」
―――
「一緒に選ぶ世界だ」
―――
その言葉。
すべてだった。




