第66話 分岐暴走――選ぶ側へ
揺れが――強すぎる。
「……っ!」
地面が割れる。
いや、違う。
「重なってる……!」
リナが叫ぶ。
―――
複数の“地面”。
複数の“世界”。
同時に存在している。
―――
「……やりすぎたか」
俺――アルクは小さく呟く。
―――
無限分岐機構。
その出力は、想定を超えていた。
―――
「アルク!」
リナの声。
振り向く。
―――
“リナが二人いる”。
―――
「……っ!?」
―――
違う。
分岐だ。
―――
「収束してない!」
リナ(もう一人)が叫ぶ。
「このままだと!」
―――
さらに増える。
―――
自分も。
「……俺もか」
―――
複数の“俺”。
それぞれが、微妙に違う行動を取ろうとしている。
―――
「まずいな」
これは。
―――
「……崩壊する」
―――
世界だけじゃない。
“認識”が。
―――
「アルク!」
リナが叫ぶ。
「制御できない!」
―――
その声。
初めての焦り。
―――
「……分かってる」
だが。
―――
「止めたら意味がない」
―――
分岐を止める=元に戻る。
―――
それは。
「負けだ」
―――
観測者が、動く。
―――
「――収束開始」
―――
空間が圧縮される。
分岐を“潰し”に来ている。
―――
「……来たな」
―――
だが。
このままだと。
―――
「こっちも持たない」
―――
リナが歯を食いしばる。
―――
「……アルク」
―――
その声。
いつもと違う。
―――
覚悟。
―――
「一つにする」
―――
「……は?」
―――
「選ぶ」
―――
空気が止まる。
―――
「分岐、全部」
一拍。
―――
「私が選ぶ」
―――
その言葉。
重すぎる。
―――
「……それやったら」
俺は言う。
―――
「お前が壊れるぞ」
―――
リナは少しだけ笑う。
―――
「大丈夫」
―――
「今ならできる」
―――
その目。
完全に“見えている側”。
―――
「全部繋がってるから」
―――
沈黙。
―――
「……アルク」
一歩、近づく。
―――
「信じて」
―――
その言葉。
―――
迷う理由はない。
―――
「……任せる」
―――
その瞬間。
リナが目を閉じる。
―――
光。
―――
分岐していた世界が、止まる。
―――
「……っ!」
リナの体が震える。
―――
「見える……!」
―――
無数の可能性。
無数の選択。
―――
その中から。
―――
「これ」
―――
一本を掴む。
―――
「これが“続く”」
―――
その瞬間。
―――
世界が収束する。
―――
だが。
完全じゃない。
―――
「……まだ揺れてる」
―――
「いい」
俺は言う。
―――
「それでいい」
―――
固定しすぎない。
―――
“揺らぎを残す”。
―――
それが答え。
―――
観測者が止まる。
―――
「……安定?」
「だが」
―――
「収束していない」
―――
混乱。
―――
「……理解不能」
―――
その瞬間。
俺は前に出る。
―――
「今だな」
―――
錬金術。
―――
今までと違う。
―――
「創る」
―――
分解でも再構築でもない。
―――
“新しく定義する”。
―――
「……何だそれは」
観測者が言う。
―――
「ルールだ」
―――
一歩。
踏み込む。
―――
「この領域は」
―――
「“選択が残る世界”だ」
―――
その瞬間。
空間が変わる。
―――
観測者の干渉が弾かれる。
―――
「……っ!」
―――
「固定できない……!」
―――
「当然だ」
―――
「固定しないって決めたからな」
―――
その瞬間。
観測者の一部が崩れる。
―――
完全じゃない。
だが。
―――
確実に“通用している”。
―――
「……アルク」
―――
振り向く。
リナが立っている。
少しだけふらつきながら。
―――
「大丈夫か」
―――
「うん」
弱く笑う。
―――
「ちゃんと選べた」
―――
その言葉。
重い。
―――
ゆっくり近づく。
―――
そのまま。
軽く支える。
―――
「……無茶したな」
―――
「ちょっとだけ」
少しだけ笑う。
―――
「でも」
―――
「これで勝てる」
―――
その言葉。
確信がある。
―――
「ああ」
―――
「勝つ」
―――
遠くで。
観測者が再構築を始める。
―――
「……排除、継続」
―――
だが。
もう違う。
―――
この世界は。
―――
“選べる”。
―――
そして。
―――
その中心に。
俺たちがいる。




