第64話 生き残り――滅びを知る者
風が止む。
遺跡の奥。
現れた“それ”は、ゆっくりとこちらを見ていた。
「……お前たちは」
かすれた声。
だが。
確かに意思がある。
―――
人型。
だが完全ではない。
皮膚はひび割れ、ところどころが“抜け落ちている”。
まるで。
「……存在が削れてる」
リナが小さく言う。
―――
「……分かるのか」
その存在が、わずかに目を細める。
―――
「お前……」
一歩、近づく。
「接続者か」
―――
空気が変わる。
―――
「……そうだ」
リナが答える。
迷いはない。
―――
その瞬間。
その存在が、わずかに笑った。
「……やっと来たか」
―――
「待ってたのか?」
俺――アルクが聞く。
―――
「来ると分かっていた」
一拍。
「“外から来る例外”が」
―――
その言葉。
完全に観測者と同じ構造。
―――
「……お前は何だ」
―――
少しの沈黙。
そして。
「……残骸だ」
―――
「この世界の」
―――
その言葉。
軽くはない。
―――
「名前は?」
リナが聞く。
―――
「……もういらない」
一拍。
「意味がない」
―――
確かに。
この状態じゃな。
―――
「……ここで何してる」
―――
「待っている」
即答。
―――
「何を」
―――
「終わらせる者を」
―――
沈黙。
―――
「……アルクだな」
俺は小さく言う。
―――
「そうだ」
その存在は頷く。
「お前だ」
―――
その視線。
完全に俺を捉えている。
―――
「……なんで分かる」
―――
「見たからだ」
一拍。
「過去も」
「流れも」
―――
「……観測者か?」
―――
「違う」
即答。
―――
「“観測された側”だ」
―――
空気が凍る。
―――
「……この世界」
リナが言う。
「どこまで進んでたの?」
―――
その存在は、ゆっくりと周囲を見る。
崩れた遺跡。
―――
「……完成していた」
―――
「観測者に並ぶ寸前まで」
―――
沈黙。
―――
「……マジかよ」
思わず呟く。
―――
「じゃあなんで負けた」
―――
その瞬間。
その存在の目が、わずかに揺れる。
―――
「……同じだった」
―――
「は?」
―――
「やり方が」
一拍。
―――
「“固定”した」
―――
その言葉。
観測者と同じ。
―――
「……均衡か」
―――
「そうだ」
―――
「完璧な世界を作ろうとした」
―――
「無駄を排除し」
「揺れを消し」
「選択を減らした」
―――
リナが小さく呟く。
「……収束しすぎた」
―――
「そうだ」
―――
「だから」
一拍。
―――
「観測者に“同類”と判断された」
―――
空気が凍る。
―――
「……それで消されたのか」
―――
「そうだ」
―――
「違いがなくなった時点で」
一拍。
―――
「“価値が消える”」
―――
沈黙。
―――
「……最悪だな」
思わず言う。
―――
「だから」
その存在が、こちらを見る。
―――
「お前は違う」
―――
「アルク」
―――
「お前は“選ばせている”」
―――
その言葉。
深く刺さる。
―――
「だから」
―――
「まだ消されていない」
―――
「そして」
一拍。
―――
「消せない」
―――
空気が変わる。
―――
「……対抗手段は」
俺は聞く。
―――
その存在は、ゆっくりと手を上げる。
崩れかけた腕。
―――
「……一つだけ残した」
―――
地面。
遺跡の中心。
―――
「……核?」
リナが言う。
―――
「“揺らぎの源”」
―――
「……何だそれ」
―――
「流れを固定しないための装置」
―――
一拍。
―――
「“無限分岐機構”」
―――
理解する。
―――
「……分岐を増やす?」
―――
「そうだ」
―――
「観測者は」
「収束を好む」
―――
「なら」
―――
「分岐させ続ければいい」
―――
その発想。
シンプルだが。
―――
「……狂ってるな」
―――
「だから残した」
―――
その存在が笑う。
かすかに。
―――
「完成できなかった」
―――
「だが」
―――
「お前ならできる」
―――
沈黙。
―――
リナがこちらを見る。
―――
「……やる?」
―――
少しだけ笑う。
―――
「やるだろ」
―――
その瞬間。
その存在が、ゆっくりと崩れ始める。
―――
「……時間切れか」
―――
「最後に」
一拍。
―――
「頼む」
―――
その言葉を残して。
消える。
完全に。
―――
静寂。
―――
リナが小さく息を吐く。
「……重いね」
―――
「ああ」
―――
だが。
―――
「面白い」
―――
その言葉に、リナが笑う。
―――
「同じこと思ってた」
―――
そのまま。
少しだけ近づく。
―――
「アルク」
「ん」
―――
「これ」
一拍。
―――
「勝てるよ」
―――
その言葉。
確信がある。
―――
「ああ」
―――
「勝つ」
―――
遺跡の中心。
“揺らぎの源”。
―――
それが。
次の鍵になる。




