第56話 干渉――世界のルールが崩れる時
違和感は――
“音”から始まった。
「……静かすぎる」
朝。
エルドラの街が、不自然に静まり返っていた。
人はいる。
動いている。
だが。
「……ズレてる」
ロイドが眉をひそめる。
「動きが……遅い?」
―――
都市中枢。
リナが端末を見つめる。
「……違う」
小さく呟く。
「遅いんじゃない」
一拍。
「“切り取られてる”」
―――
空気が凍る。
「……何だそれ」
セリナが言う。
リナはゆっくりと顔を上げる。
「時間」
一言。
「部分的に抜けてる」
―――
沈黙。
理解が追いつかない。
だが。
「……来たな」
俺――アルクは小さく言う。
―――
「観測者か」
ミレイアが笑う。
だが。
その目は真剣だ。
「本気で干渉してきたわね」
―――
その瞬間。
空気が歪む。
「……っ!」
全員が反応する。
―――
目の前。
空間が裂ける。
そこから。
“何か”が落ちてくる。
―――
「……は?」
ロイドが呟く。
人。
だが。
動かない。
完全に“止まっている”。
―――
「……これ」
リナが近づく。
触れる。
その瞬間。
「……っ!」
ビクッと反応する。
そして。
動き出す。
「……時間が戻った?」
―――
「いや」
俺は言う。
「戻したんだ」
―――
「……実験か」
セリナが舌打ちする。
「趣味悪ぃな」
―――
その時。
声が響く。
「――確認」
空間の向こう。
観測者。
「干渉、成功」
―――
「……来たか」
俺は一歩前へ。
―――
「面白い」
観測者が言う。
「この世界は」
一拍。
「脆い」
―――
その瞬間。
地面が揺れる。
建物が歪む。
「……っ!」
エリシアが叫ぶ。
「構造が崩れてる!」
―――
「やめろ」
俺は低く言う。
観測者は微笑む。
「なぜ?」
「観測のためだ」
―――
「……関係ない」
一歩。
踏み込む。
「止める」
―――
錬金術。
展開。
だが。
「……っ!」
流れが狂う。
「制御できない!?」
―――
「当然だ」
観測者が言う。
「ルールを書き換えている」
―――
空気が凍る。
「……マジかよ」
ロイドが呟く。
「チートじゃねぇか」
―――
「アルク!」
リナの声。
「ここ」
一点を指す。
「まだ“元のまま”の領域」
―――
「……なるほど」
理解する。
完全には書き換えられていない。
“継ぎ目”がある。
―――
「そこから広げる」
俺は言う。
―――
「できる?」
リナが聞く。
「やる」
即答。
―――
その瞬間。
リナが動く。
「接続、固定」
光が走る。
空間が安定する。
「……今!」
―――
「分解」
「再構築」
一気に広げる。
歪んだ領域を。
元に戻す。
―――
「……っ!」
観測者の表情が初めて変わる。
「干渉……無効化?」
―――
「できる」
俺は言う。
一歩。
さらに踏み込む。
「全部じゃない」
一拍。
「でも十分だ」
―――
観測者が静かに言う。
「……危険度、上昇」
その声。
明らかに変わった。
―――
「アルク」
リナが少しだけ揺れる。
「……負荷が」
限界が近い。
―――
「もういい」
俺が言う。
「下がれ」
「でも」
「いい」
一拍。
「ここからは俺がやる」
―――
リナが少しだけ迷う。
だが。
すぐに頷く。
「……任せる」
―――
その瞬間。
少しだけ近づく。
小さく。
触れる。
一瞬。
―――
「……これでいける」
小さく笑う。
―――
「……便利だな」
「でしょ」
少しだけ強がる。
―――
俺は前へ。
完全に。
“例外領域”へ。
―――
「……観測者」
呼ぶ。
―――
「お前のルール」
一拍。
「全部じゃない」
―――
錬金術。
最大展開。
―――
「書き換えるのは」
「こっちだ」
―――
衝突。
世界が揺れる。
―――
観測者が初めて後退する。
「……不可能なはず」
―――
「可能だ」
俺は言う。
「ここは」
一拍。
「俺の領域だ」
―――
その瞬間。
歪みが消える。
空間が安定する。
時間が戻る。
―――
「……なるほど」
観測者が呟く。
「領域支配」
一拍。
「完全に“対等”か」
―――
沈黙。
そして。
「撤退」
―――
空間が閉じる。
気配が消える。
―――
静寂。
元の世界が戻る。
―――
「……終わったか」
ロイドが息を吐く。
「一旦な」
俺は言う。
―――
リナが近づく。
少しだけ疲れている。
だが。
笑っている。
「……やったね」
「ああ」
―――
そのまま。
自然に寄ってくる。
「……怖かった?」
「少しな」
「私も」
―――
手を重ねる。
今度は。
少し強く。
しっかりと。
―――
「でも」
リナが言う。
「勝てる」
一拍。
「絶対」
―――
俺は頷く。
「勝つ」
短く。
確実に。
―――
その頃。
観測者は静かに言う。
「……対象、確定」
一拍。
「“排除対象”へ昇格」
―――
戦いは。
最終段階へ入った。
次は――
「排除」




