第55話 観測者――世界を“外”から見るもの
静寂。
音がない。
風もない。
だが――
「……存在はある」
俺――アルクは呟く。
目の前。
人の形をした“何か”。
「――ようこそ」
それは微笑む。
だが。
温度がない。
「“観測者”よ」
―――
「……何を観測してる」
俺は問う。
短く。
無駄を省く。
相手は一瞬だけ目を細める。
「良い質問だ」
一拍。
「すべてだ」
―――
沈黙。
意味が広すぎる。
だが。
「……ふざけてるのか」
「いいや」
首を振る。
「正確に言うなら」
一拍。
「“流れ”を見ている」
―――
「流れ?」
リナが小さく呟く。
観測者は視線を向ける。
「そう」
「選択の積み重ね」
「その分岐」
「その収束」
―――
「……世界線かよ」
ロイドがいればそう言っただろう。
俺は一歩踏み込む。
「それで?」
「何のために」
―――
観測者は微笑む。
「維持のため」
「均衡のため」
一拍。
「そして」
「記録のため」
―――
「……管理者か」
「近い」
一拍。
「だが」
「介入もする」
空気が変わる。
―――
「南方同盟は」
俺は言う。
「お前らか」
「正確には」
観測者は少しだけ指を動かす。
空間に波紋。
映像のようなものが浮かぶ。
―――
人々。
繋がっている。
見えない糸。
「……これ」
リナが息を呑む。
「接続されてる」
―――
「そう」
観測者が頷く。
「我々は“選ぶ”」
一拍。
「接続する個体を」
「そして」
「導く」
―――
「……操ってるだけだろ」
俺は言う。
観測者は首を振る。
「違う」
一拍。
「選ばせている」
その言葉。
どこかで聞いた構造。
―――
「……似てるな」
俺は小さく言う。
観測者が微笑む。
「そう」
「だから」
一拍。
「興味がある」
―――
その視線。
完全にこちらを捉えている。
「お前だ」
沈黙。
―――
「……何がだ」
「例外」
一言。
―――
空気が止まる。
「この世界は」
観測者が続ける。
「基本的に“収束する”」
「予測できる」
「だが」
一拍。
「お前は違う」
―――
「……何が違う」
「分岐を強制する」
一拍。
「しかも」
「安定させる」
―――
ミレイアがいたら笑っていただろう。
「……つまり」
「想定外ってことか」
「そう」
観測者は頷く。
「だから」
「危険」
―――
「排除するか?」
俺は聞く。
観測者は少しだけ考えて。
そして。
首を振る。
「現時点では」
一拍。
「観察対象」
―――
「……随分余裕だな」
「当然だ」
その声。
揺らがない。
「我々は“外側”」
一拍。
「時間も」
「空間も」
「制約にならない」
―――
その圧。
強い。
だが。
「関係ないな」
俺は言う。
一歩。
踏み込む。
―――
「ここに来てる時点で」
「触れる」
観測者の目がわずかに細くなる。
「……なるほど」
一拍。
「確かに」
「完全ではない」
―――
その瞬間。
リナが前に出る。
「アルク」
声が落ち着いている。
「繋がってる」
一拍。
「ここも」
「向こうも」
―――
「……いけるか」
「いける」
迷いがない。
―――
観測者が笑う。
「面白い」
「非常に」
一歩。
近づく。
「試してみるか」
―――
空間が歪む。
圧がかかる。
「……っ!」
だが。
「止まってる」
リナが言う。
「流れ、固定した」
―――
「……なるほど」
観測者が呟く。
「接続者」
一拍。
「鍵だな」
―――
「アルク」
リナが言う。
「今なら」
「触れる」
―――
「……分かった」
一歩。
前へ。
―――
手を伸ばす。
観測者へ。
―――
その瞬間。
世界が揺れる。
情報が流れ込む。
「……っ!」
膨大。
圧倒的。
―――
「……見える」
小さく呟く。
構造。
繋がり。
流れ。
―――
「……なるほどな」
一拍。
「こういう仕組みか」
―――
観測者が一瞬だけ沈黙する。
そして。
「……理解したのか」
「した」
短く答える。
―――
「……やはり」
一拍。
「危険だな」
その声。
初めて。
わずかに。
“感情”が混じる。
―――
「帰るぞ」
俺は言う。
リナを見る。
「うん」
頷く。
―――
観測者が言う。
「次は」
一拍。
「こちらから行く」
―――
「来い」
俺は答える。
「全部受ける」
―――
そのまま。
空間が歪む。
戻る。
―――
エルドラ。
夜。
風が戻る。
音が戻る。
―――
「……帰ってきたな」
ロイドの声。
現実。
―――
リナが少しだけ息を吐く。
「……すごかった」
「だな」
一拍。
「でも」
そのまま。
少しだけ寄ってくる。
「いける」
その言葉。
確信がある。
―――
手を重ねる。
静かに。
強く。
「行けるな」
「うん」
―――
エルドラは。
“外側”に触れた。
次は――
「干渉」




