第54話 世界の外側にあるもの
違和感は――
“空”にあった。
「……上?」
都市中枢。
リナがゆっくりと顔を上げる。
何もない。
青い空。
だが。
「……違う」
その目は、何かを捉えている。
「どうした」
俺――アルクが近づく。
「繋がってる」
静かな声。
一拍。
「ここじゃないどこかに」
―――
「……来たわね」
ミレイアが呟く。
その表情。
いつもと違う。
「何がだ」
ロイドが聞く。
ミレイアはゆっくりと答える。
「“本体”」
空気が凍る。
―――
「南方同盟ってのは」
セリナが言う。
「人の集まりじゃなかったんだろ?」
「ええ」
ミレイアが頷く。
「正確には」
一拍。
「“接続されてる側”」
―――
「……意味が分からねぇ」
ロイドが眉をひそめる。
「簡単よ」
ミレイアが指を上に向ける。
「“上”に何かがある」
一拍。
「そこに繋がってる」
―――
沈黙。
理解が追いつかない。
だが。
リナだけが。
静かに頷いていた。
「……見える」
「流れが」
その声。
確信がある。
―――
「どこに」
俺が聞く。
リナは目を閉じる。
集中。
そして。
「……向こう」
ゆっくりと指を指す。
空の一点。
「……あそこに“穴”がある」
―――
空に穴。
普通ならあり得ない。
だが。
「……本当だな」
俺は小さく言う。
わずかに。
歪みが見える。
―――
「……マジかよ」
ロイドが息を吐く。
「完全に規模がおかしい」
セリナが笑う。
「やっと面白くなってきた」
―――
「どうする」
エリシアが聞く。
「放置は危険」
当然だ。
―――
少しだけ考える。
そして。
「行く」
短く言う。
沈黙。
「……行くって」
ロイドが呟く。
「空だぞ?」
「関係ない」
一拍。
「繋がってるなら行ける」
―――
「やっぱりそうなるわよね」
ミレイアが笑う。
だが。
その目は真剣だ。
「ただし」
一拍。
「向こうは“世界の外側”」
「ルールが違う」
―――
「問題ない」
俺は言う。
「こっちで合わせる」
ロイドが笑う。
「相変わらずだな」
―――
「……アルク」
リナが小さく呼ぶ。
振り向く。
その目。
少しだけ不安。
だが。
決意もある。
「一緒に行く」
「危ないぞ」
「分かってる」
一拍。
「でも」
「繋がってるの、私だから」
―――
その言葉。
重い。
確かに。
リナがいなければ。
この“穴”は認識すらできない。
―――
「……分かった」
短く答える。
「行こう」
その一言で。
決まる。
―――
準備はすぐに整う。
「ほんとに行くんだな」
ロイドが笑う。
「戻って来いよ」
「当然だ」
セリナが言う。
「土産話楽しみにしてる」
―――
ミレイアが近づく。
「一つだけ」
一拍。
「向こうでは」
「“繋がり”が全て」
「切られたら終わり」
―――
「覚えとく」
短く言う。
―――
夜。
エルドラ上空。
風が強い。
だが。
静かだ。
「……ここ」
リナが言う。
空の歪み。
確かに存在している。
―――
「行けるか」
「うん」
リナが手を伸ばす。
光が広がる。
歪みが開く。
「……すげぇな」
ロイドが呟く。
「別世界じゃねぇか」
―――
「アルク」
リナが手を差し出す。
少しだけ緊張している。
だが。
逃げない。
―――
その手を取る。
「行くぞ」
―――
一歩。
踏み込む。
世界が変わる。
―――
光。
音。
そして――
静寂。
―――
次の瞬間。
足元に感覚が戻る。
「……ここは」
周囲を見る。
空間が歪んでいる。
色が違う。
音がない。
「……違う」
完全に。
別の場所。
―――
「……来た」
リナが小さく言う。
その目。
さらに深くなっている。
「……全部繋がってる」
―――
その時。
声がする。
「――ようこそ」
振り向く。
そこにいたのは。
人の形。
だが。
何かが違う。
「待っていた」
一拍。
「“観測者”よ」
―――
空気が凍る。
「……何だ、お前は」
俺が言う。
男は微笑む。
「我々は」
一拍。
「“外側”だ」
―――
エルドラの戦いは。
ついに。
世界を越えた。
次は――
「観測者」




