第53話 勝利の代償と、世界の評価
戦いが終わった朝。
エルドラは――静かだった。
「……思ったより被害は少ないな」
ロイドが城壁を見下ろす。
「防壁が耐えた」
セリナが言う。
「リナのおかげだな」
―――
都市中枢。
リナは椅子に座っていた。
まだ少し顔色が悪い。
「……無理するなって言っただろ」
俺――アルクが言う。
「うん」
小さく笑う。
「でも、止められた」
一拍。
「それでいい」
その言葉に、迷いはない。
―――
「結果としては上出来よ」
ミレイアが資料を見ながら言う。
「侵攻は完全に防いだ」
「しかも」
「敵の一部を潰した」
エリシアが続ける。
「各国の評価は――」
一拍。
「跳ね上がる」
―――
その日の昼。
報告が次々と届く。
「王国」
「正式に同盟を打診」
「北方連邦」
「軍事連携の強化を希望」
「商人連合」
「全面的な投資提案」
ロイドが笑う。
「一気に来たな」
セリナも肩をすくめる。
「分かりやすい」
―――
「……どうする」
ミレイアが聞く。
全員がこちらを見る。
―――
少しだけ考える。
そして。
「選ぶ」
短く言う。
一拍。
「全部は受けない」
―――
「いいわね」
ミレイアが笑う。
「完全に上に立ってる」
「当然だ」
ロイドが言う。
「ここまでやったんだ」
―――
その時。
扉が開く。
「アルク」
アイゼルだ。
「……無事か」
「ああ」
「そっちは?」
「問題ない」
一拍。
そして。
「……やったわね」
その言葉。
短いが。
重い。
―――
「評価が変わった」
アイゼルが言う。
「完全に」
一拍。
「もう誰も“辺境”とは思ってない」
「だろうな」
―――
「ただし」
その目が鋭くなる。
「警戒も最大級」
一拍。
「“敵に回したくない存在”」
―――
それは。
最高の評価であり。
最大のリスクでもある。
―――
「問題ない」
俺は言う。
「どうにでもなる」
アイゼルが小さく笑う。
「……そういうところ」
一瞬だけ。
感情が揺れる。
だが。
すぐに戻る。
―――
夕方。
ミレイアが資料を広げる。
「本題よ」
空気が変わる。
「南方同盟」
一拍。
「“本体”」
―――
「分体は潰した」
セリナが言う。
「だが」
「意味はない」
エリシアが続ける。
「また来る」
―――
「場所は?」
「不明」
ミレイアが答える。
「ただし」
一拍。
「“中心”はあるはず」
―――
「……見つけるか」
ロイドが言う。
「やるしかねぇな」
―――
「いや」
俺は首を振る。
「向こうから来る」
沈黙。
「どういう意味だ」
―――
「もう目をつけられてる」
一拍。
「だから」
「次は」
「本体が動く」
―――
空気が重くなる。
「……デカいの来るな」
セリナが笑う。
「面白いじゃねぇか」
―――
夜。
温泉。
今日は――静かで、穏やかだ。
戦いの後の、休息。
リナが隣にいる。
少しだけ元気を取り戻している。
「……アルク」
「ん」
「次も来るね」
「来るな」
一拍。
「大きいの」
「だろうな」
―――
少しだけ。
リナが寄ってくる。
自然に。
もう迷いはない。
「……怖い?」
俺が聞く。
「ちょっとだけ」
正直な答え。
「でも」
一拍。
「大丈夫」
「なんでだ」
―――
少しだけ笑う。
「一緒だから」
その言葉。
静かに強い。
―――
手を重ねる。
今度は。
少し長く。
ゆっくりと。
触れる。
「……だな」
短く言う。
―――
そのまま。
静かに。
近づく。
今日は。
穏やかに。
深く。
一瞬だけ。
長く。
触れる。
―――
「……これでいける」
小さく笑う。
「万能だな」
「でしょ」
少しだけ得意げ。
―――
その頃。
南方同盟の“本体”。
「……分体消失」
複数の声。
「だが」
「問題ない」
一拍。
「対象、確定」
―――
「アルク」
その名が。
初めて。
“本体”に認識された。
―――
エルドラは。
世界の頂点に立った。
だが――
次は。
「世界の外側」




