第49話 裏切りの理由と、選ぶ覚悟
「……見つけた」
夜。
都市中枢。
リナの声は静かだった。
だが。
その一言で、空気が変わる。
「確定か?」
俺――アルクが聞く。
「うん」
短い答え。
迷いがない。
「名前は?」
少しだけ間。
そして。
「……ユーク」
沈黙。
―――
「ユーク……?」
ロイドが眉をひそめる。
「物流管理の中核だぞ」
エリシアも頷く。
「優秀で、忠実」
セリナが舌打ちする。
「よりによってそこかよ」
―――
「証拠は?」
「ある」
リナが端末を操作する。
映像。
記録。
通信ログ。
すべてが揃っている。
「外部接触、複数回」
「情報流出、確認済み」
一拍。
「完全にクロ」
空気が重く沈む。
―――
「……どうする」
ロイドが低く言う。
簡単な話じゃない。
ユークはただの一人じゃない。
中枢に近い。
影響も大きい。
「切るか?」
セリナが言う。
即断。
それが一番早い。
だが――
「……待て」
俺は静かに言う。
全員がこちらを見る。
「理由を聞く」
沈黙。
「……は?」
ロイドが呟く。
「裏切りだぞ」
「分かってる」
一拍。
「それでもだ」
―――
「甘い」
ミレイアが言う。
「かもな」
「でも」
一拍。
「ここで間違えたら終わる」
空気が止まる。
「人を切る街になる」
「それは違う」
―――
その言葉。
重い。
誰も反論できない。
―――
「……分かった」
ロイドが頷く。
「呼ぶか」
「いや」
首を振る。
「行く」
―――
夜。
物流区。
静まり返っている。
その中で。
一つの倉庫だけに灯り。
「……いたな」
中に入る。
ユークがいた。
「……アルク様」
驚き。
だが。
逃げない。
「話がある」
俺は静かに言う。
―――
沈黙。
重い沈黙。
「……バレましたか」
ユークが先に口を開いた。
「バレてる」
「そうですか」
一拍。
「……すみません」
その言葉。
軽くない。
―――
「理由は」
俺は聞く。
短く。
ユークは少しだけ目を伏せて――
そして言った。
「家族です」
一瞬。
空気が止まる。
「……何だと」
「南方同盟に捕まってる」
一拍。
「逆らえば、殺される」
沈黙。
―――
「だから」
「情報を流した」
「……そうです」
声が震えている。
「裏切るつもりはなかった」
一拍。
「でも」
「……選べなかった」
その言葉。
重い。
―――
後ろで。
リナが小さく息を呑む。
ロイドは無言。
セリナは舌打ち。
ミレイアは静かに見ている。
―――
「……なるほど」
俺は小さく呟く。
そして。
一歩近づく。
「選べなかった、か」
ユークは俯いたまま。
「はい」
「じゃあ」
一拍。
「今、選べ」
沈黙。
ユークの肩が震える。
「……無理です」
「家族が……」
「助ける」
即答。
ユークが顔を上げる。
「……え?」
「取り返す」
一拍。
「だから」
「選べ」
沈黙。
長い沈黙。
―――
ユークの目に、涙が浮かぶ。
「……本当に」
「助けてくれるんですか」
「やる」
短く。
迷いなく。
―――
その瞬間。
ユークの顔が崩れる。
「……なら」
一拍。
「戻ります」
はっきりと言った。
「全部話します」
「知ってること全部」
―――
空気が変わる。
完全に。
「……決まりだな」
ロイドが小さく言う。
セリナも頷く。
「いい判断だ」
ミレイアが笑う。
「やっぱりね」
―――
「ただし」
俺は言う。
ユークを見る。
「次はない」
「はい」
「裏切るな」
「はい!」
力強い返事。
―――
夜。
温泉。
今日は――少しだけ重い空気。
でも。
静かだ。
リナが隣に座る。
そして。
ゆっくり寄ってくる。
「……アルク」
「ん」
「よかったの?」
一拍。
「甘いかも」
正直な言葉。
―――
少しだけ考えて。
答える。
「甘いかもな」
でも。
「それでいい」
リナが少しだけ笑う。
「……うん」
そのまま。
軽く寄りかかる。
「アルクっぽい」
一拍。
「だから好き」
その言葉。
静かに深い。
―――
少しだけ手を重ねる。
「助かる」
そのまま。
軽く触れる。
短く。
でも。
優しく。
「……これで大丈夫」
小さく笑う。
―――
その頃。
南方同盟の特使は、静かに言った。
「……見つかったか」
一拍。
「いい」
「次だ」
その目は。
まだ余裕を失っていない。
―――
エルドラは。
一度、崩れかけた。
だが――
立て直した。
次は――
「反撃」




