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第48話 侵食は、静かに始まる

違和感は――


小さなところから始まった。


「……流れがズレてる?」


都市中枢。


リナが端末を見ながら眉をひそめる。


供給ライン。


循環速度。


どれも正常。


だが。


「……ほんの少しだけ」


遅れている。


誤差レベル。


普通なら気づかない。


だが。


「……嫌な感じ」


小さく呟く。


―――


同時刻。


市場区。


「最近、取引条件が変わったって聞いたか?」


商人がひそひそ話す。


「どこもか?」


「ああ」


「妙に“都合がいい”話が増えてる」


「……誰が流してる?」


「分からん」


だが。


確実に広がっている。


―――


執務室。


「……始まってるな」


ロイドが資料を見ながら言う。


「目に見えない形で」


セリナが腕を組む。


「気持ち悪ぃな」


ミレイアが笑う。


「だから言ったでしょ」


一拍。


「侵食よ」


―――


「どこまで入り込んでる」


俺――アルクが聞く。


エリシアが答える。


「表面上は問題なし」


「だが」


一拍。


「意思決定に微妙な揺れが出てる」


「……内部か」


「ええ」


空気が重くなる。


―――


「切るか?」


セリナが言う。


簡単な解決策。


だが。


「ダメだ」


俺は即答する。


「見えない敵は切れない」


一拍。


「だから」


全員を見る。


「“選ばせる”」


ロイドが笑う。


「来たな」


―――


その日の午後。


エルドラ全域に通達が出る。


――新制度導入

――全取引の“透明化”

――選択式契約


「……なんだこれ」


商人たちがざわつく。


「全部見えるようにするってことか?」


「しかも」


「自分で選ぶ?」


―――


都市中枢。


リナが説明する。


「これで“外からの誘導”は全部見える」


一拍。


「どっちが得か、全部分かる」


ロイドが頷く。


「強制じゃないのがいいな」


「選ばせる」


俺が言う。


「それでいい」


―――


その夜。


南方同盟の特使。


「……面白い」


小さく呟く。


「強制しない、か」


一拍。


「だが」


「人は揺れる」


その目は変わらない。


―――


翌日。


結果が出始める。


「……残ったな」


ロイドが言う。


ほとんどの商人が。


エルドラ側を選んだ。


「当たり前だ」


セリナが笑う。


「条件が違いすぎる」


だが。


「……少数、動いてる」


エリシアが言う。


数件。


外に流れた。


「……そこだな」


俺は静かに言う。


―――


その夜。


リナが報告に来る。


「……見つけた」


「何を」


「流れの“ズレ”の原因」


一拍。


「人」


やはりそうか。


「誰だ」


「まだ確定じゃない」


だが。


「近い」


その目。


完全に集中している。


―――


「……無理するなよ」


俺が言うと。


リナは少しだけ笑う。


「無理じゃない」


一拍。


「やりたい」


その言葉。


軽くない。


「アルクが守ってるから」


「私も守る」


―――


夜。


温泉。


今日は――少し静かだ。


だが。


空気は柔らかい。


リナが隣に座る。


そして。


自然に寄ってくる。


「……ちょっと疲れた」


珍しい言葉。


「だろうな」


そのまま。


肩に寄りかかる。


「でも」


一拍。


「楽しい」


「そうか?」


「うん」


少しだけ顔を上げる。


「一緒にやってる感じ」


その言葉。


深い。


―――


少しだけ手を重ねる。


「そうだな」


そのまま。


軽く触れる。


短く。


優しく。


「……これで回復」


小さく笑う。


「便利だな」


「でしょ」


少しだけ得意げ。


―――


その頃。


南方同盟の特使は静かに言う。


「……第一段階、完了」


一拍。


「次は」


「“内部”を崩す」


その目は。


完全に冷たい。


―――


エルドラは。


見えない戦いに入った。


次は――


「内部崩壊」


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