第41話 戦う理由と、隣にいる覚悟
帝国艦は、動かない。
だが――
「動かないのが一番怖ぇ」
セリナが城壁の上で呟いた。
上空に浮かぶ巨影。
静止しているだけで、圧がある。
街全体が、その存在を意識していた。
「時間を与えてる」
ロイドが言う。
「準備させてるのか、試してるのか」
「両方だろうな」
俺――アルクは空を見上げながら答えた。
―――
エルドラは、すでに動いている。
防壁の強化。
資源の再配置。
物流の最適化。
戦闘員の配置。
「……全部、回ってるな」
ロイドが感心する。
「止めてない」
「止められない」
一拍。
「止まったら終わる」
―――
中枢区画。
錬金工房。
「ここが“心臓”か」
アイゼルが静かに呟く。
無数の術式。
絶え間なく動く装置。
循環するエネルギー。
「……理解できない」
「しなくていい」
俺は短く言う。
「動けばいい」
アイゼルは少しだけ笑う。
「合理的」
だが。
その目は真剣だ。
「ねぇ、アルク」
「ん?」
「あなた、何者なの?」
少しだけ間。
「ただの錬金術師だ」
「嘘ね」
即答だった。
一歩近づく。
「そんなレベルじゃない」
その距離。
かなり近い。
「国を作ってる」
一拍。
「人を動かしてる」
さらに一歩。
「戦争を止める側にいる」
完全に見抜いている。
―――
その瞬間。
「……アルク」
リナの声。
振り向くと。
少しだけ不安そうな顔。
だが。
すぐに歩いてくる。
そして。
自然に隣に立つ。
完全に“そこが定位置”だと示すように。
「……何してるの?」
軽い問い。
でも。
空気は鋭い。
アイゼルは一瞬だけ視線を移し。
「観察よ」
淡々と答える。
「あなたの“大事な人”を」
沈黙。
―――
リナの目が変わる。
「……そう」
短い返答。
だが。
そのまま。
アルクの腕を軽く掴む。
さりげない。
でも明確な行動。
「なら」
一拍。
「ちゃんと見て」
アイゼルを見る。
「この人は、誰の隣にいるか」
静かだが、強い。
―――
アイゼルは数秒黙り。
そして。
「……理解してる」
小さく言う。
だが。
「それでも」
一拍。
「興味は消えない」
セリナが遠くで笑う。
「いいねぇ」
ミレイアも静かに笑う。
「完全に戦場ね」
―――
夕方。
作戦会議。
「帝国の動き、変化なし」
エリシアが報告する。
「逆に気持ち悪いな」
ロイドが言う。
ミレイアが口を開く。
「来るわよ」
全員が静かになる。
「“試し”じゃない」
一拍。
「“潰し”に来る」
その言葉。
重い。
「どのタイミングだ」
俺が聞く。
ミレイアは少しだけ考えて。
「明日」
即答。
空気が張り詰める。
「……根拠は?」
「勘よ」
軽く言う。
だが。
その目は本気だ。
「外したこと、ないでしょ?」
ロイドが苦笑する。
「ないな」
―――
夜。
街は静かだ。
だが。
完全に“戦争前夜”の空気。
人々は落ち着いている。
でも。
全員が理解している。
明日、何かが起きる。
―――
温泉。
今日は――少し違う。
静けさが深い。
リナが先にいた。
湯気の中。
静かに座っている。
「……アルク」
「ん」
振り向く。
その目は、いつもと違う。
迷いがない。
「決めた」
一拍。
「私も、逃げない」
その言葉。
重い。
「戦う?」
「ううん」
首を振る。
「隣にいる」
一歩近づく。
そして。
抱きつく。
ゆっくりと。
でも、強く。
「……一人で背負わせない」
一拍。
「一緒にいる」
その言葉。
深い。
―――
少しだけ手を回す。
抱き返す。
「助かる」
「うん」
そのまま。
顔が近づく。
今日は。
静かに。
ゆっくり。
触れる。
長く。
優しく。
でも。
どこか決意が混じる。
リナの手が強くなる。
「……アルク」
「ん」
「明日、勝って」
「勝つ」
「絶対」
「絶対だ」
そのまま。
もう一度。
今度は少しだけ強く。
―――
その頃。
帝国艦。
ヴェルシアが静かに立っていた。
「……準備完了」
部下が報告する。
「よろしい」
一拍。
「明日、開始する」
その目は冷たい。
完全に。
“壊す側”の目だった。
―――
エルドラは。
明日、戦う。
次は――
「衝突」




