第40話 帝国の影と、選ばせないための選択
それは、突然だった。
「……未確認の艦影、接近中!」
見張りの声が、エルドラ全域に響く。
空がざわつく。
人の流れが止まる。
「艦影?」
ロイドが眉をひそめる。
「空だ」
エリシアが即座に訂正する。
「飛行艦」
沈黙。
「……来たな」
ミレイアが低く呟く。
その声には、わずかな緊張が混じっていた。
「どこの所属だ」
俺――アルクが聞く。
エリシアは短く答える。
「帝国」
空気が、変わった。
―――
上空。
巨大な影がゆっくりと現れる。
鋼鉄の外殻。
複数の魔導砲。
圧倒的な存在感。
「……でけぇな」
セリナが笑う。
「笑ってる場合じゃねぇだろ」
ロイドがツッコむ。
リナは俺の隣で、小さく息を呑んでいた。
「……あれ、敵?」
「まだ分からない」
俺は静かに言う。
「でも」
一拍。
「友好的ではないな」
―――
飛行艦が、ゆっくりと高度を下げる。
そして。
エルドラの外縁で停止した。
完全に“見せつけている”。
「威圧だな」
ロイドが言う。
「分かりやすい」
セリナが笑う。
―――
やがて。
一隻の小型艇が降下する。
門前に着陸。
扉が開く。
現れたのは――
白銀の軍服を纏った女。
長い銀髪。
鋭い目。
「……また女かよ」
セリナが小さく笑う。
ミレイアが肩をすくめる。
「趣味いいじゃない」
―――
応接室。
空気は完全に張り詰めている。
帝国の女が名乗る。
「帝国軍外交執行官」
一拍。
「ヴェルシア・レグナード」
その声は冷たい。
だが、圧がある。
「要件は一つ」
迷いがない。
「エルドラを帝国の管理下に置く」
沈黙。
完全に“命令”だった。
―――
ロイドが静かに言う。
「……交渉じゃねぇな」
セリナが笑う。
「宣告だ」
エリシアは無言。
ミレイアは楽しそうに見ている。
リナは――
俺の方を見ている。
任せる、という視線。
―――
俺は、ヴェルシアを見た。
「断る」
即答。
空気が一瞬で凍る。
ヴェルシアの目がわずかに細くなる。
「理由は?」
「支配される理由がない」
一拍。
「むしろ」
少しだけ前に出る。
「そっちが来い」
沈黙。
ロイドが小さく笑う。
「言うなぁ」
セリナも笑う。
「いいね」
―――
ヴェルシアは数秒黙り。
そして。
「理解した」
短く言う。
だが。
「では」
一拍。
「次は実力で示す」
完全に宣戦布告だった。
―――
帰還後。
会議室。
「……来たな、本命」
ロイドが言う。
「帝国か」
セリナが笑う。
「デカすぎる相手だな」
ミレイアが静かに言う。
「今までとはレベルが違う」
「分かってる」
俺は短く言う。
「でも」
一拍。
「やることは同じだ」
――守る。
それだけだ。
―――
夜。
温泉。
今日は、静かだった。
でも。
空気が少しだけ重い。
リナが隣に座る。
そして。
ゆっくりと寄ってくる。
完全に自然。
でも。
少しだけ強い。
「……アルク」
「ん」
「怖い」
素直な言葉。
「帝国」
一拍。
「勝てるの?」
まっすぐな問い。
俺は少しだけ考えて。
答える。
「勝つ」
短く。
迷いなく。
リナが少しだけ笑う。
「……ずるい」
「何が」
「安心する」
そのまま。
抱きつく。
いつもより強く。
完全に密着。
「……離れないで」
小さな声。
でも強い。
「離れない」
そのまま。
少しだけ顔が近づく。
今日は。
静かに。
優しく。
触れる。
長く。
ゆっくり。
リナの手が強くなる。
「……好き」
「知ってる」
「ちゃんと勝って」
「勝つ」
そのまま。
もう一度。
今度は少しだけ強く。
―――
その頃。
ヴェルシアは飛行艦の中で呟いていた。
「……面白い」
一拍。
「壊しがいがある」
その目は冷たい。
だが。
ほんのわずかに。
興味が混じっていた。
―――
エルドラは。
ついに“帝国”と向き合う。
次は――
「戦争前夜」




