第37話 外交という戦場と、揺れる距離
エルドラは、もう“街”ではない。
それを一番強く感じるのは――
「朝から会議三本って何だよ……」
ロイドが机に突っ伏した。
「まだ増えるぞ」
俺――アルクは淡々と言う。
「勘弁してくれ」
セリナが笑う。
「戦場よりキツそうだな」
「実際キツい」
エリシアは冷静に資料を整理している。
ミレイアは壁際で静かに笑っていた。
「これが“国”よ」
一拍。
「楽しいでしょ?」
「……まあな」
嫌いじゃない。
むしろ――
燃える。
―――
午前。
第一会議。
北方連邦、正式交渉。
アイゼルが座っている。
相変わらず無駄がない。
「昨日の提案、再確認する」
彼女は静かに言う。
「技術の共有はしない」
「だが成果物の供給と運用支援は行う」
俺は頷く。
「その通りだ」
「対価は?」
「資源と情報」
一拍。
「特に北方の魔導資源」
ロイドが補足する。
「あと交易路の優先権だ」
アイゼルは少しだけ考え――
「受け入れる」
即答だった。
だが。
その目は、明らかにこちらを見ている。
「ただし」
「一つ条件を追加する」
空気が変わる。
「何だ?」
俺が聞く。
アイゼルは、まっすぐに言った。
「私をエルドラに常駐させろ」
沈黙。
ロイドが眉をひそめる。
「……人質か?」
「違う」
即答。
「監視でもない」
一拍。
「見たいだけ」
セリナが笑う。
「怪しいな」
ミレイアも口を開く。
「かなりね」
リナは少しだけ俺を見る。
その視線。
“どうするの?”
―――
少し考える。
そして。
「いい」
全員がこちらを見る。
「ただし」
一拍。
「こっちのルールに従え」
アイゼルは即座に頷いた。
「問題ない」
――決まった。
―――
会議後。
廊下。
アイゼルが隣に来る。
「意外だった」
「何が」
「拒否されると思っていた」
「合理的だからな」
一拍。
「見たいなら見ればいい」
アイゼルは少しだけ目を細める。
「……面白い」
その言葉に、少しだけ熱があった。
―――
午後。
第二会議。
商人連合との再接続。
完全にこちら有利。
「条件はエルドラ主導だ」
ロイドが言い切る。
誰も反論しない。
流れは完全に変わっている。
―――
夕方。
ミレイアが話しかけてくる。
「いいの?」
「何が」
「新しい女、入れて」
ストレートだ。
「問題ない」
「余裕ね」
一拍。
「それとも」
少しだけ近づく。
「自信?」
その目。
試している。
「どっちもだ」
ミレイアは少しだけ笑う。
「……いいわね」
だが。
その奥に、わずかな揺れがある。
―――
夜。
温泉。
今日は――少し空気が違う。
リナが先にいた。
静かに座っている。
「……リナ」
「ん」
声が少しだけ小さい。
「どうした」
「別に」
嘘だ。
分かりやすい。
隣に座る。
少し間。
そして。
「……アイゼル」
小さな声。
やっぱりそれか。
「気になるか?」
「……ちょっと」
正直だ。
そのまま、少しだけ寄ってくる。
でも、いつもより控えめ。
「取られたりしないよね」
一拍。
直球。
「しない」
即答。
リナが少しだけ顔を上げる。
「ほんと?」
「ほんとだ」
そのまま。
少しだけ強く引き寄せる。
完全に距離がゼロになる。
「……アルク」
「ん」
「ずるい」
「なんで」
「安心する」
小さく笑った。
そのまま。
自然に。
触れる。
今日は少しだけ優しく。
ゆっくり。
リナの手が強くなる。
「……好き」
「知ってる」
「ちゃんと言ったの初めて」
「知ってる」
少しだけ顔が赤い。
そのまま。
もう一度。
今度は少しだけ長く。
静かな時間。
―――
その頃。
アイゼルは一人でエルドラを見ていた。
灯り。
人の流れ。
整った街。
「……なるほど」
小さく呟く。
そして。
「これは」
一拍。
「欲しくなる」
その目は。
完全に“狙う側”のそれだった。
―――
エルドラは。
さらに深く“世界”に踏み込む。
次は――
「奪い合い」




