第38話 奪う者と、守る者
朝。
エルドラ中央広場。
「……ここが中心か」
アイゼルが静かに呟く。
整った石畳。
規則的な建造物。
人の流れ。
そのすべてが、明らかに“普通ではない”。
「無駄がない」
「効率がいい」
一拍。
「完成されている」
その目は冷静だった。
だが――
「だからこそ」
小さく呟く。
「欲しくなる」
―――
その視線の先。
リナがいた。
アイゼルは迷わず歩き出す。
「あなたがリナ?」
唐突だった。
リナが振り向く。
「……はい」
少し警戒している。
当然だ。
「アルクの隣にいる」
一拍。
「一番近い人間」
リナの目がわずかに揺れる。
「……そうですけど」
アイゼルは淡々と言う。
「いい位置にいる」
その言葉。
軽いようでいて、明確な圧がある。
「……何が言いたいんですか」
リナの声が少しだけ硬くなる。
アイゼルは一切表情を変えずに言った。
「競合になる可能性がある」
沈黙。
空気が一瞬で張り詰める。
「……は?」
リナの声。
驚きと、怒り。
混ざっている。
「私はアルクに興味がある」
一拍。
「個人としても」
完全な宣戦布告だった。
―――
そこへ。
「何してる」
俺――アルクが現れる。
空気の異常にすぐ気づく。
「ちょうどいい」
アイゼルがこちらを見る。
「確認したい」
「何を」
「あなたの立ち位置」
リナがこちらを見る。
ミレイアも遠くで見ている。
完全に“試されている”。
―――
少しだけ息を吐く。
そして。
「俺はエルドラの責任者だ」
一拍。
「それが全部だ」
アイゼルは首を傾げる。
「曖昧ね」
「そうか?」
「ええ」
一歩近づく。
距離が近い。
かなり近い。
「個人としては?」
リナの手がわずかに動く。
緊張している。
―――
少しだけ間。
そして。
「選んでる」
短く言う。
リナを見る。
「リナだ」
沈黙。
完全な答え。
―――
リナの目が一瞬で変わる。
安心。
そして少しの照れ。
でも。
それ以上に強い。
「……ありがとう」
小さな声。
でも、はっきり。
―――
アイゼルは。
数秒黙っていた。
そして。
「……なるほど」
小さく呟く。
「理解した」
だが。
その目は変わらない。
「でも」
一拍。
「それでも興味は消えない」
セリナが遠くで笑う。
「強ぇな」
ミレイアも小さく笑う。
「面白い」
―――
その場は、一応収まった。
だが。
完全には終わっていない。
―――
夕方。
会議室。
「……火種増えたな」
ロイドが言う。
「だな」
「どうする」
「どうもしない」
即答。
セリナが笑う。
「らしいな」
ミレイアが静かに言う。
「でも気をつけなさい」
一拍。
「アイゼルは“奪う側”よ」
分かっている。
だからこそ。
「問題ない」
短く言う。
―――
夜。
温泉。
今日は――少し違う。
リナが先に入っている。
静かだ。
でも。
気配が少し強い。
「……リナ」
「ん」
振り向く。
少しだけ頬が赤い。
「さっきの」
「うん」
「聞いてた」
一拍。
少しだけ近づいてくる。
いつもより強い。
「……嬉しかった」
そのまま。
抱きつく。
完全に。
柔らかい。
温もり。
距離がゼロ。
「ちゃんと選んでくれた」
「当たり前だ」
「うん」
そのまま。
顔が近づく。
今日は。
迷いがない。
自分から。
触れる。
少し強く。
少し長く。
呼吸が混ざる。
「……アルク」
「ん」
「負けないから」
一拍。
「絶対」
その言葉。
可愛いだけじゃない。
強い。
「負ける必要ない」
そう言うと。
リナは少しだけ笑う。
「それでも」
そのまま。
もう一度。
今度はゆっくり。
静かに。
時間が流れる。
―――
その頃。
アイゼルは一人で空を見ていた。
「……選ばれた、か」
小さく呟く。
だが。
「関係ない」
一拍。
「手に入れる方法は一つじゃない」
その目は。
完全に冷静だった。
そして――
わずかに楽しんでいる。
―――
エルドラは。
“外”と“内”の両方で揺れ始めた。
次は――
「奪いに来る」




