第30話 選択と、その先にあるもの
夜は静かだった。
だが、その静けさは“嵐の前”に近い。
エルドラの灯りが遠くに見える。
市場も、河川も、すべてが回っている。
だが――
「全部、ここで決まる」
俺――アルクは一人、広場に立っていた。
背後から足音。
「まだ悩んでるのか」
セリナだ。
「まあな」
「珍しいな」
「そうでもない」
一拍。
「ただ、今回は重い」
セリナが少しだけ笑う。
「だろうな」
そして隣に立つ。
「で?」
短く聞く。
「どっちだ」
分かってるくせに。
「決めた」
そう言うと、セリナは少しだけ目を細めた。
「いい顔だ」
―――
翌朝。
エルドラ中央広場。
人が集まっている。
商人。
職人。
住民。
そして――
ゼルヴァイン。
クロード。
ミレイア。
すべてが揃った。
完全な舞台だ。
俺は中央に立つ。
空気が静まる。
「結論を出す」
ざわめきが止まる。
全員の視線が集まる。
「エルドラは――」
一拍。
「準国家都市になる」
沈黙。
その言葉は重い。
だが続ける。
「ただし」
全員の視線を受けながら言う。
「王国の管理は受けない」
空気が揺れる。
ゼルヴァインが目を細める。
「……どういう意味ですか」
「こういうことだ」
一歩前に出る。
「制度は共有する」
「だが運営は独立」
「軍事協力はする」
「だが指揮は受けない」
沈黙。
つまり――
「都合のいいところだけ取る、か」
クロードが笑う。
「図太いな」
「そうでもない」
俺は静かに言う。
「対等なだけだ」
―――
ゼルヴァインはしばらく黙っていた。
そして。
「……いいでしょう」
あっさりと認めた。
周囲がざわつく。
「本気か?」
クロードが言う。
ゼルヴァインは淡々と答える。
「価値がある」
一拍。
「管理するより、使った方がいい」
合理的だ。
完全に。
「ただし」
視線が鋭くなる。
「逸脱すれば、即時排除」
「当然だな」
俺は即答した。
―――
クロードはしばらく黙っていた。
そして。
「なるほど」
小さく笑う。
「面白い」
一歩前に出る。
「では私は」
一拍。
「別の方法で手に入れる」
完全に敵だな。
だが問題ない。
むしろ分かりやすい。
「好きにしろ」
短く答える。
―――
そして。
ミレイア。
何も言わない。
ただこちらを見ている。
そして――
「……やっぱりね」
小さく笑う。
「その選び方」
一歩、近づく。
距離が近い。
かなり近い。
「嫌いじゃない」
リナが即反応。
「近い!」
「相変わらずね」
ミレイアが笑う。
そして俺にだけ聞こえる声で言う。
「これで本当に“同じ側”かもね」
意味深すぎる。
―――
広場の空気が変わる。
「決まった……」
「エルドラ……すげぇ……」
「もう国みたいなもんだぞこれ」
完全に。
次の段階へ入った。
―――
夜。
温泉。
今日は静かだった。
少しだけ、安心の空気。
リナが隣に座る。
そして、すぐに寄ってくる。
完全に自然。
「……アルク」
「ん?」
「決まったね」
「ああ」
「よかった」
小さく息を吐く。
そのまま、寄りかかる。
柔らかい。
温もり。
「……ねぇ」
少しだけ間。
「かっこよかった」
素直すぎる。
「そうか?」
「うん」
そのまま、さらに距離が近くなる。
顔が近い。
かなり近い。
「……ねぇ」
「ん?」
「もう一回言って」
「何を」
「好きって」
一瞬、止まる。
でも逃げない。
「好きだ」
リナの顔が一気に赤くなる。
でも。
今回は逃げない。
むしろ――
さらに近づく。
「……私も」
小さな声。
そのまま。
ほんの少しだけ――
顔が近づく。
その瞬間。
ツルッ。
「きゃ!」
タイミングどうなってんだほんとに。
抱き寄せる。
距離ゼロ。
完全密着。
今日は一番近い。
離れない。
リナも離れない。
「……アルク」
「はい」
「これ」
一拍。
「もう慣れた」
「それはどうなんだ」
でも。
笑っている。
そのまま、少しだけ長く。
静かな時間。
その瞬間。
バシャッ!!
「混ざれ」
セリナだ。
「お前マジでタイミング!!」
「ほんとにいいとこ全部壊すな!!」
セリナが笑う。
「分かりやすすぎるぞお前ら」
―――
エルドラは。
“都市”から“準国家”へ。
そして物語は――
次のステージへ進む。




