第29話 上からの圧力と、選ばれる都市
エルドラの“変化”は、もう隠しきれない段階に入っていた。
市場はさらに拡張され、
河川輸送は周辺都市を巻き込み始め、
銀行は小国並みの資金を扱い始めている。
そして何より――
「制度が動いてる」
俺――アルクは広場を見ながら呟いた。
ロイドが頷く。
「自治法、完全に機能している」
「契約改ざん不可も効いてるな」
セリナが笑う。
「もう“都市”じゃねぇな」
「だな」
これはもう。
国家未満の何かだ。
―――
その日の昼。
エルドラ東門。
再び現れた。
重厚な馬車。
護衛の数が違う。
兵士だけじゃない。
礼装の文官。
そして――
「……来たか」
エリシアが小さく呟く。
「誰?」
リナが聞く。
エリシアは短く答えた。
「王国宰相代理」
空気が変わる。
完全に上層だ。
馬車の扉が開く。
降りてきたのは――
細身の男。
無駄のない動き。
冷静な目。
「初めまして」
穏やかな声。
だが、その奥にあるものは別だ。
「王国政務官、ゼルヴァインです」
ただの名乗り。
だが全員が理解した。
“敵”ではない。
だが――
「味方でもない」
俺は一歩前に出る。
「アルクだ」
ゼルヴァインは軽く頷く。
そして街を見渡す。
一瞬で空気を読むように。
「……想像以上ですね」
その評価は素直だった。
だが続ける。
「だからこそ問題です」
沈黙。
リナの手が少し強くなる。
「問題?」
「ええ」
ゼルヴァインは淡々と言う。
「エルドラは“成長しすぎている”」
一拍。
「制御不能になり得る」
完全に同じ話だ。
だが、レベルが違う。
「で?」
俺は聞く。
ゼルヴァインはまっすぐこちらを見る。
「選択です」
空気が張り詰める。
「王国の管理下に入るか」
一拍。
「それとも――」
少しだけ間。
「敵と見なされるか」
完全に来たな。
―――
その時。
「待ちなさい」
別の声。
振り向く。
ミレイアだ。
今日は少し違う。
いつもより静かだ。
「その言い方は雑ね」
ゼルヴァインが少しだけ目を細める。
「あなたは?」
「情報顧問よ」
軽く答える。
そして俺を見る。
「アルク」
一歩、近づく。
距離が近い。
「選び方、間違えないで」
その言葉は――
今までと違った。
敵でも、挑発でもない。
「……なるほど」
俺は少しだけ笑う。
「アドバイスか?」
「さあね」
でも。
その目は明らかに違った。
―――
その空気を壊すように。
「ほう」
クロードが現れる。
完全に揃ったな。
「面白い構図だ」
優雅に笑う。
「では、選ばせてもらおう」
ゼルヴァインを見る。
「王国の管理か」
俺を見る。
「それとも私の庇護か」
さらに一歩。
「どちらにしても“上に立つ者”は必要だ」
沈黙。
完全な圧。
逃げ場はない。
だが――
「両方断る」
即答。
空気が止まる。
「……ほう?」
クロードが笑う。
ゼルヴァインは無言。
ミレイアは少しだけ口元を緩める。
「理由は?」
ゼルヴァインが聞く。
俺は一歩前に出る。
「エルドラは」
一拍。
「俺たちの街だ」
それだけ。
だが十分だ。
沈黙。
そして――
ゼルヴァインが小さく笑った。
「予想通りです」
「では」
一拍。
「第三の選択を提示しましょう」
空気が変わる。
「王国公認の“準国家都市”」
リナが目を見開く。
「なにそれ……」
ロイドが低く言う。
「……格上げだな」
エリシアも頷く。
「異例すぎるけど……可能性はある」
つまり。
「独立を認める代わりに、枠に入れる」
なるほどな。
ゼルヴァインが続ける。
「これなら、王国も管理できる」
「あなたも自由を保てる」
クロードが面白くなさそうに言う。
「甘いな」
ミレイアは静かに見ている。
そして。
全員の視線が、俺に集まる。
―――
夜。
温泉。
今日は少し静かだった。
考えることが多すぎる。
リナが隣に座る。
すぐに寄ってくる。
もう完全に自然だ。
「……アルク」
「ん?」
「どうするの?」
小さな声。
でも重い。
俺は少しだけ考えて。
正直に言った。
「まだ決めてない」
リナが少しだけうつむく。
「そっか」
そのまま、少し強く寄りかかってくる。
柔らかい。
温もり。
「……でも」
小さな声。
「どこ行っても」
一拍。
「一緒にいる」
その言葉に、少しだけ笑った。
「それは助かる」
その時。
ツルッ。
「きゃ!」
もう定番だな。
抱き寄せる。
距離ゼロ。
完全密着。
今日はさらに近い。
離れない。
リナも離れない。
「……アルク」
「はい」
「これ」
一拍。
「落ち着く」
「それはいいことだ」
そのまま、少しだけ長く。
静かな時間。
珍しく――
セリナが来ない。
そのまま、数秒。
「……ねぇ」
リナが小さく言う。
「ちゃんと選んで」
一拍。
「後悔しない方」
その言葉。
しっかり受け取った。
―――
エルドラは。
ついに選択を迫られる。
次は――
「決断」




