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第28話 ルールを作る者と、従う者

監査は止まらなかった。


エルドラの市場はいつも通りに動いている。

だが、その隅々に“検査の目”が入り込んでいる。


「営業許可証の提示を」


「契約書の再確認を」


「税記録に不備があります」


声が飛び交う。


商人たちの顔に焦りが浮かぶ。


「ちょっと待て、今までは問題なかっただろ!」


「制度が変わりましたので」


冷たい返答。


正論。


だからこそ、厄介だった。


「……想像以上に面倒だな」


俺――アルクは広場の端で呟いた。


ロイドが低く頷く。


「このままだと、三日で回らなくなる」


「五日で物流が詰まる」


セリナが肩をすくめる。


「殴れない相手はめんどくせぇな」


リナが少しだけ不安そうに俺を見る。


「アルク……どうするの?」


その問いに、俺はすぐには答えなかった。


少しだけ考える。


流れを整理する。


相手は“ルール”で攻めてきている。


なら――


「こっちもルールで返す」


一歩前に出る。


「いや」


一拍。


「上から被せる」


―――


会議室。


空気は静かだが、緊張が濃い。


ロイド、エリシア、セリナ、リナ。


全員が揃っている。


俺は机の上に数枚の紙を並べた。


「新制度を作る」


沈黙。


エリシアがすぐに反応する。


「都市独自の?」


「違う」


「もっと上だ」


全員の視線が集まる。


「“準国家制度”」


沈黙。


ロイドが目を細める。


「……本気か」


「本気だ」


エリシアも真剣な顔になる。


「それはつまり」


「王国に近い権限を持つってことよ」


「そう」


セリナが笑う。


「面白いな」


「やるか」


リナは少しだけ戸惑っている。


「そんなこと……できるの?」


俺は即答した。


「できる」


一拍。


「作るからな」


―――


その日の夕方。


エルドラ中央広場。


人が集まっていた。


自然と。


誰かに呼ばれたわけじゃない。


だが全員が感じている。


“何かが起きる”と。


俺は中央に立つ。


風が吹く。


静かに。


「エルドラは変わる」


ざわめきが止まる。


「これからは」


一拍。


「ルールに従う側じゃない」


視線を全体に向ける。


「ルールを作る側になる」


沈黙。


理解が追いつかない。


だが続ける。


「エルドラ自治法を制定する」


その言葉で、空気が変わった。


「自治法……?」


「何それ……」


ざわめきが広がる。


ロイドが前に出る。


「簡単に言えば」


「この街のルールは、この街が決める」


エリシアが続ける。


「王国の法と矛盾しない範囲で、独自制度を認めさせる」


つまり――


「上書きだ」


セリナが笑う。


「完全に喧嘩売ってるな」


「売ってる」


―――


さらに俺は、手をかざした。


錬金術式が展開する。


光が広場に広がる。


「証明する」


地面に刻まれる紋様。


それはただの演出じゃない。


「契約術式だ」


リナが目を見開く。


「これ……」


「この場で交わした契約は」


一拍。


「改ざん不可にする」


沈黙。


ロイドが小さく笑う。


「……そこまでやるか」


「やる」


これが――


エルドラのルール。


信用を“物理的に固定する”。


―――


その瞬間。


監査官たちが動く。


「その制度は認められない!」


クロードも前に出る。


「越権だ」


だが。


エリシアが静かに言った。


「問題ないわ」


全員の視線が集まる。


「王国法第七条」


「自治都市の独自制度は、監察官の認証により有効とする」


一拍。


「私が認証する」


沈黙。


クロードの表情が初めて変わる。


「……何?」


「それは……」


「合法よ」


完全に。


逆転。


―――


市場の空気が変わる。


「すげぇ……」


「ルール作りやがった……」


「エルドラ……やばいぞこれ」


流れが一気に固定される。


クロードは黙ったまま。


だが。


その目は完全に冷えていた。


「……面白い」


小さく呟く。


「なら次は」


一拍。


「もっと上から潰す」


―――


夜。


温泉。


今日は空気が違う。


少しだけ熱が残っている。


リナが隣に座る。


そして自然に寄ってくる。


完全に距離が近い。


「……アルク」


「ん?」


「今日のやつ」


少しだけ間。


「かっこよかった」


珍しく素直。


「そうか?」


「うん」


そのまま、さらに寄る。


柔らかい。


温もり。


「……ねぇ」


小さな声。


「どんどん遠く行かないでね」


その言葉。


少しだけ重い。


俺はすぐに答えた。


「行かない」


一拍。


「一緒に行くなら別だけどな」


リナが少しだけ笑う。


「それならいい」


その時。


ツルッ。


「きゃ!」


はい来ました。


抱き寄せる。


距離ゼロ。


完全密着。


今日はさらに近い。


「……アルク」


「はい」


「これ」


一拍。


「ちょっと好き」


「何が」


「この距離」


「それは危険だ」


でも。


離れない。


少しだけ長く触れていた。


その瞬間。


バシャッ!!!


「混ざれ」


セリナだ。


「お前ほんといい加減にしろ!!」


「いいとこ全部壊すな!!」


セリナが笑う。


「分かりやすすぎるぞお前ら」


―――


エルドラは。


ついに“ルールを作る側”に回った。


次は――


「さらに上」


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