第102話 恒星炉――百隻艦隊が欲した火
星海に砲火が走る。
百隻艦隊とアーカ・リング防衛圏の間で、青白い閃光が絶え間なく交差していた。
その中心を、新生エルドラ号が滑るように駆け抜ける。
「左二、後ろ三!」
リナの声。
「了解!」
俺――アルクは操舵輪を切り、船体を縦回転させた。
光弾の隙間を抜ける。
そのまま艦首砲発射。
追撃してきた巡航艦の推進器だけを焼き切る。
「相変わらず器用だね」
「全部沈めると後で面倒だ」
「そこなんだ」
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だが意識の半分は、別の場所へ向いていた。
港内部。
アーカ・リング中心部から、太陽のような光が漏れ始めている。
「オルフェウス」
通信越しに呼ぶ。
「恒星炉って何だ」
数秒の沈黙。
そして低い声。
『人工恒星反応機関』
『星一つを模倣した永久級エネルギー炉だ』
「……またさらっと規模がおかしいな」
リナが呆れる。
『本港は元来、その封印保管施設でもあった』
⸻
「そんなものがあるなら、なんで今まで使わなかった」
『危険だからだ』
即答だった。
『出力は都市百個を養える』
『暴走すれば航路ごと焼く』
「極端だな」
「便利だけど危ないやつ」
「お前みたいだ」
「失礼」
⸻
敵艦隊の陣形が変わる。
外周艦が港防壁へ集中砲火。
その隙に、数隻の高速艇が港下部ドックへ突入していく。
「……あれだ」
リナが目を細める。
「本隊は陽動。潜入班が本命」
「司令官、切れるな」
―――
通信が開く。
ミレナ・ヴァルシュの顔が映る。
『ようやく理解したようだ』
『港は器。恒星炉こそ目的』
「素直に言えばいいのに」
『言って止める気は?』
「ないな」
『なら同じだ』
―――
彼女の瞳に疲労が滲んでいた。
『連盟辺境域では、百億の民が燃料不足で凍えている』
『航路は崩れ、植民星は次々と消える』
『理想論で暖は取れない』
リナが黙る。
俺もすぐには返せなかった。
信念持ちの相手は厄介だ。
しかも、理由が現実的すぎる。
⸻
「だからって奪うのか」
俺は言う。
『使われず眠る火より、使われる火を選ぶ』
『指揮官として当然だ』
「……筋は通ってる」
「でも雑だね」
リナが前へ出る。
『何?』
「その火で、ここに住み始めた人たちごと焼けたらどうするの」
ミレナは一瞬黙った。
『被害は最小化する』
「ゼロじゃない」
『戦略にゼロはない』
「嫌いな答え方」
通信が切れた。
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「どうする?」
リナが聞く。
「二正面だよ」
外では艦隊戦。
内では潜入班。
恒星炉暴走の危険まである。
「分かれて動くしかない」
「私もそう思った」
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少し考える。
そして首を振る。
「いや、一緒に行く」
「え?」
「嫌な予感がする」
リナは数秒見つめてから、笑った。
「それ、嬉しい」
「勘だ」
「知ってる」
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「オルフェウス、外は任せられるか」
『百隻相手は無理だ』
「正直で助かる」
『だが四十分は持たせる』
「十分だ」
ユナの声が割り込む。
『私も防壁制御に入ります!』
『あと港の非常食倉庫も守ります!』
「優先順位おかしい!」
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エルドラ号を急旋回。
港下部ドックへ突入する高速艇群を追う。
敵もこちらへ気づき、迎撃機を放ってくる。
「アルク!」
「まとめていく!」
錬金術展開。
周囲に散った砲弾片、ドローン残骸、金属屑。
全部を一気に束ね、巨大な網へ変える。
迎撃機群を丸ごと絡め取る。
「荒っぽい!」
「時間がない!」
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そのまま高速艇一隻へ体当たり寸前で接近。
船体横へ手を置く。
「停まれ」
推進機構だけを分解。
艇は火花を散らして漂流した。
残り三隻がドックへ侵入する。
「二隻右、一隻下!」
「了解!」
リナの未来読みで進路を掴む。
艦首砲を三連射。
右二隻の舵を破壊。
最後の一隻だけが港内へ滑り込んだ。
「逃した!」
「いや」
俺は笑う。
「案内させる」
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追跡して港内部へ入る。
巨大な整備トンネル。
古いレール。
眠った作業機械群。
敵艇は最奥へ向かっている。
その先に、封鎖区画。
そして。
「……熱い」
リナが額を押さえる。
「恒星炉、もう起きかけてる」
⸻
最奥の隔壁前。
敵兵たちが装置を展開し、封印解除を進めていた。
その中心に、一人の男がいる。
白衣。
義眼。
穏やかな笑み。
「お待ちしていました」
振り返った男が一礼する。
「私は連盟技術総監、ゼノ・カルディア」
「司令官殿より先行を任されまして」
「……嫌な予感の正体だな」
俺が呟く。
リナが顔をしかめる。
「この人、ミレナより危ない」
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ゼノの背後で、隔壁の隙間から太陽のような光が漏れる。
「恒星炉は救済になります」
男は穏やかに言う。
「少々の犠牲を伴っても」
「最近その理屈多いな」
俺は肩を回した。
「飽きた」
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外では百隻艦隊。
内では狂気の技術者。
港の心臓部で、本当の戦いが始まる。
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――第103話へ続く――




