第101話 百隻砲火――港を守る戦争
警報が鳴り響く。
輪状都市アーカ・リング全域が赤く染まり、壁面の光路が高速で明滅していた。
観測窓の向こう。
百を超える艦隊が、静かに砲門を展開している。
まるで星の海に並ぶ墓標だ。
「……圧あるね」
リナが腕を組んだ。
「数だけはな」
俺――アルクは肩を回す。
「勝てるの?」
「勝てるようにする」
「出た」
⸻
ユナが情報窓を次々と展開する。
「敵艦種別解析中!」
「主力戦列艦二十七、巡航艦四十三、支援艦多数!」
「砲撃開始まで残り二十七分!」
「律儀だな」
「宣言通りなの怖いね」
―――
オルフェウスが即座に指示を飛ばす。
「外周防壁を最大展開」
「全ドローン迎撃機を起動」
「非戦闘区画を閉鎖」
広場の床が開き、無数の小型機が飛び立つ。
銀色の群れが星空へ散った。
「……本気だな」
「元軍港だもの」
ユナが答える。
「ただし老朽化九十七%です」
「急に弱気な数字出すな」
⸻
「アルク」
リナが袖を引く。
「百隻全部、真正面からは無理」
「だろうな」
「でも」
瞳を細める。
「司令官艦を落とせば流れ変わる」
「見えてるのか」
「なんとなく」
「便利すぎる」
⸻
俺は観測窓の外を見る。
中央後方。
他艦より一回り大きい黒銀の旗艦。
槍のような艦首、周囲を護衛艦が囲んでいる。
「あれか」
「たぶんね」
⸻
通信が開く。
司令官ミレナ・ヴァルシュが再び映る。
『残り二十五分』
『降伏勧告に変化なし』
「几帳面だな」
俺は前へ出る。
「質問いいか」
『一つまで』
「港が欲しい理由は?」
数秒の沈黙。
『航路再建の要衝だからだ』
『そして』
瞳がわずかに鋭くなる。
『ここには、連盟が失ったものが眠っている』
通信終了。
「……意味深」
リナが言う。
「だな」
⸻
「よし」
俺は振り返る。
「こっちも準備するぞ」
⸻
格納庫。
エルドラ号の前に立つ。
小さな船だ。
百隻相手には心許ない。
だが。
「大きくする?」
リナがにやにやしている。
「分かってるじゃないか」
⸻
錬金術展開。
格納庫の余剰資材、予備装甲、ドローンフレーム、古い砲身。
さらに港外周の未使用ブロックまで引き寄せる。
エルドラ号を中心に、金属と光が渦を巻いた。
ユナが目を見開く。
「船体再構成!?」
オルフェウスの瞳が揺れる。
「無許可改造」
「今許可取る」
「却下」
「遅い」
⸻
光が晴れる。
そこに現れたのは、以前の細身の船ではない。
白銀の装甲艦。
世界樹の枝材を芯にした流線型船体。
左右に展開する結晶翼。
艦首には巨大錬成砲。
「……かっこいい」
リナが素直に言う。
「名前どうする?」
「エルドラ号改」
「安直!」
「嫌ならアルク三号」
「それもっと嫌」
⸻
出撃。
格納庫ハッチが開く。
新生エルドラ号が星海へ滑り出す。
同時に港外周防壁が展開。
青い半球が都市を包んだ。
敵艦隊に動きが走る。
『敵小型艦、出撃確認』
『……一隻?』
通信越しに困惑が漏れる。
「舐められてるね」
「毎回だ」
⸻
敵巡航艦三隻が前進。
砲門展開。
「アルク、三秒後左二発、右一発」
「了解」
操舵輪を切る。
船体がありえない角度で滑る。
光弾が紙一重で交差した。
「乗り心地最悪!」
「我慢しろ!」
⸻
艦首砲、発射。
錬成光が一直線に走る。
敵一隻の主砲塔を貫通、無力化。
続けて船体横腹へ接触。
「分解」
装甲板だけを剥がし、内部機関停止。
「沈めないんだ」
リナが驚く。
「交渉の余地は残す」
「優しい」
「資材が惜しいだけだ」
「台無し」
⸻
だが敵も甘くない。
周囲から十隻以上が包囲機動。
網のような陣形で逃げ道を塞ぐ。
「ミレナ、やるね」
リナが真顔になる。
「本命来るよ」
中央旗艦が前進していた。
他艦の砲撃を囮に、射線を作っている。
「司令官自らか」
「格あるじゃん」
⸻
旗艦主砲が輝く。
「アルク!」
「分かってる!」
回避では間に合わない。
なら。
「借りるぞ」
周囲の小惑星残骸、破片、撃墜ドローン。
全部引き寄せ、一枚の巨大盾へ再構成。
主砲直撃。
閃光。
衝撃。
盾が半壊するが、防ぎ切る。
「……出力高いな」
「今の私たちなら蒸発してた」
「言い方怖い」
⸻
通信が入る。
ミレナ本人だ。
『興味深い』
『一隻でここまでやるとは』
「褒めるなら引いてくれ」
『断る』
『ますます必要だ、その技術も港も』
「強欲だな」
『指揮官に必要な資質だ』
―――
嫌いじゃない返しだった。
⸻
リナが小さく息を呑む。
「アルク」
「ん?」
「この人、本気で民を守るつもりでもいる」
「……厄介だな」
悪人ではなく、信念持ちの相手。
一番面倒だ。
⸻
その瞬間、港内部から新たな信号。
ユナの声が響く。
『緊急報告!』
『港深部に封鎖区画、自動開放!』
オルフェウスが凍る。
「まさか……」
「何だ?」
数秒の沈黙。
そして低く告げた。
「連盟が本当に欲しいのは港ではない」
「ここに眠る、“恒星炉”だ」
星海全域が一瞬、静まり返った気がした。
「……また面倒な単語だな」
リナが笑う。
「でも嫌いじゃないでしょ?」
「当然だ」
⸻
百隻艦隊の砲火の向こうで。
港の中心部が、太陽のように光り始めていた。
⸻
――第102話へ続く――




