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099.「」


 さて、これはあくる日の話。



 ぴちぴち足湯。ちゃぷちゃぷ足湯。

 あったか足から心まで。

 ゆらゆら湯けむり。ふんわり気分。

 気持ちもぽかぽかニコニコだ。



 そんな歌を首をふりふり、とても楽しそうに口ずさんでいる一人の少女がいる。


 歌詞にもあった通り、そこは湯けむりの立ち込める温泉。

 知る人ぞ知る秘湯ひとうにして、天然の露天風呂だ。


 岩場に一人腰かけ、足湯がてらチャプチャプ揺らしているわけだが。


 ただそうと言っても、実際に声に出して歌っているわけではない。

 声無しの口パクだ。


 このときはまだ喉の調子があまりかんばしくなかったもので、発声は控えてのこと。作詞作曲も即興で、思いつくままの超テキトウだが。


 それでも少女にとっては十分楽しかった。

 なにせそれくらい久しぶりのことだったから。


(はぁあ〜、極楽極楽)


 あまりの心地よさに、思わず肩をポンポンと叩く。

 体をリクライニングさせて「ほぅ」と息を漏らしてしまう。


 実際には足湯だが。

 あるいは頬まで紅潮させている、そんな少女――アルメリア・リーフレットの心持ちは。


(気持ちいい〜〜)


 しっかり肩から芯まで浸かっているかのように和み、満ち足りたものだった。



 ◆



 アルメリアが此処でこうしていること自体は、さして珍しいことでもない。


 なんと言ってもアルメリアは温泉が好きだ。

 単純にお風呂好きというのもあるが……。

 (ミネラルが豊富で美容にいいとか、そんな話は正直よく分からない。)


 やっぱり一番は、そこに芳醇ほうじゅんな大地の魔力が溶け込んでいることが大きい。


 魔樹は魔力と根を張れる土さえあれば、大体どこでも育つけれど。

 やっぱり水や光といった自然の育みも、あるに越したことはないから。


 なればこそ擬人化マンドラゴラたるアルメリアにとって、源泉とはこの上ない滋養じようとなる。今日のように晴天の日であれば尚のこと。


 水、光、土――すべてが申し分なく揃っている温泉は、お風呂好きのアルメリアにとって最高にして至高のアメニティなのだ。


 これほど贅沢で至福なことは他にないだろうと、そう断言できるほどに。


「ほぅ……」


 チャプチャプと足を揺らし、湯に遊ばせながら。

 それはもうゆったり、まったりとしていた。

 とても久しぶりとなる心地よさに、心身を委ねて。


(できることなら……)


 このまま全身で浸かってしまいたい。

 いいではないか。

 どうせこんな山奥まで、誰も来やしないのだから。


 エチケットも、人の目も気にしないで。

 いっそのこと服を着たまま、お湯の真ん中でプカプカと手足を伸ばし、心ゆくまで浸って、ただよって。


 実際やってみたこともある。

 あれは本当に気持ちがよかった。

 是非またやりたいのだが……。


 残念、今ばかりは控えるしかない。


 ケガに障るからだ。

 まだ体のあちこち傷と包帯だらけだし、顔にもでっかい絆創膏がずっと貼り付いたまま。


 とくに片腕は骨折で吊っている。

 わりと重症だ。

 こんな状態で湯船になんか浸かろうものなら、沁みるどころの騒ぎでは済まないだろう。


 それこそ下手をすれば……。


(この温泉丸ごと、ポーションになっちゃったりして……)


 まさかないとは思うけれど。

 それも含めて一応やめておいた。

 せっかく見つけたこの穴場が、本物の秘湯ひとうになってしまってはコトだと。


 というわけでケガをするまえは此処に来ることが日課で楽しみだったし、さっきやっと数日ぶりに足を運べたけれど。


 今日のところはこのまま、足湯だけ堪能して帰ろうと思う。


 もっとも――。

 「足を運んだ」と言っても、自力で来られたわけではない。

 帰るにしても同様で、送迎がいるのだが。


 そろそろかなと思ったら、来てくれたみたいだ。


「チッ、やっぱクセぇなココ。何ならさっき来たときより強くなってんじゃねぇか。イオウか? 鼻毛までチリチリしやがるが……。まぁいい、迎えに来てやったぜ。ちったぁふやけたかよ」


 魔剣は腰に挿したまま、木刀をペチペチと肩叩きに、草履をペタペタと。


 どこか飢えた狼を思わせる赤髪の男――レドックス・ガレイアがワルの笑みを吊り上げて。


 ほんとにもう。


「ピィスケ」


 その呼び方やめてって言ってるのに。

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