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096.「」


 今夜、アルメリアがレドックスと顔を合わせた目的は大きく2つある。


 1つはまぁ、いつものことだ。

 レドックスに薬を――アルメリアの血から抽出し、精製した特製ポーションを飲ませるため。


 これにはやや複雑というか、込み入ったワケが絡んでいる。

 話のとっかかりは例の、レドックスが所有している一本の魔剣だ。


 ――銅剣シャンバラ。

 魔剣は全部で三本あって、三兄弟がそれぞれ一本ずつ所有しているわけだが。


 どうもそれら魔剣には意志が宿っていて、時として持ち主の体を乗っ取ってしまうこともあるという、かなりいわく付きの代物しろものらしい。


 これは性格的な例えとしてだが。

 まずライナルトが手にする金剣ルミナリスは<調和>。

 剣と主人が互いを支え合い、ときに剣自らが持ち主を導き、力を貸すこともある。


『要はムンムンなんだよ。どっちが上か下かで乗っかり合ってズッコンバッコンやりあうんだろ。ネットリ絡んで、互いにいいトコ突き合うってのが本来だろうな』


 レドックスからはそんな例え方をされたもので、明かされたときの驚きとか緊張感はさっそく台無しだ。


『本来はって、ライナルトさんは違うの?』


『ちげぇな。ありゃダメだ、完全に尻に敷かれてやがる。そりゃそうだ。ヤリまくりのクソビッチがサンピー童貞なんざまともに相手するわけねぇ。強すぎるリードに引っ張り回されてんだよ』


 ゲラゲラ笑っていた。

 サンピー童貞の意味するところは知らない。


 続いて。

 ジルクリフの手にする銀剣アルシャジオは<従順>。


 剣は主人に寄り添い、その歩みに従う。

 ちゅうをつくす。

 自らの意思を介入させるのは、よほどの非常時か主人を守るときだけ。


『つまりは受け身専門だな。奉仕ほうしはするが奥手で、間違っても自分からガンガン腰振りにくるタマじゃねぇ。まぁよっぽどさかったときは、自分から押し倒すこともあるみてぇだが』


『例え方がサイテーすぎて、なんかもう……』


『一応は尽くすタイプのおしとやか系ってことになっちゃいるが、裏を返しゃ調教プレイでもハァハァいっちまうマゾ女ってことかもな。ムッツリのエログリフとは、そりゃさぞ噛み合うってもんだろうぜぇー!?』


 これまたゲラゲラ笑っていた。

 もしその魔剣たちが聞いたら、それこそ持ち主の兄共々、全力で襲い掛かられるのではないか。そう心配になるほどのこき下ろしぶりだが、さておき。


 本題。

 レドックスの手にする銅剣シャンバラは<支配>。


 剣と主人は絶えず、互いに支配権を奪い合い――。

 そして時に剣が主人を圧し伏せ、その精神ごと乗っ取ってしまうこともある。


『乗っ取る……? 乗っ取るってどういうこと?』

『どういうことも何も、そのマンマの意味だろうが』


 いつも持ち歩いている魔剣。

 あまり抜いているところは見たことのないそれをひょいと釣り竿のように持ち上げ、何でもないことのようにレドックスは続ける。


『コイツはとんだじゃじゃ馬だぜ。こっちがちょっと気ぃ抜ぃぬきゃ、すぐに体ごと持ってこうとしやがる。欲求不満なんてもんじゃねぇ。テメェのやりたいようにするためなら、相方なんざどうなったって構わねぇってタチだ』


『…………』


『潰れるまで搾り取って、ズイまでしゃぶり尽くしたらまた次の獲物おとこに乗り換える。そうやって取っ替え引っ替え、食い散らしてきたんだろうな』


 そんな話をされて、当時アルメリアとしては大いに戸惑ったものだ。

 もしレドックスの話をそのまま信じるなら、彼はいまもその魔剣と体を取り合っているということになるが。


 プラプラと片手間に扱い、下ネタを連発している辺り、とてもそんな風には見えない。


(どこまで本気なの……?)


 いまいち判然とせず、半信半疑だったが。

 後に知ることになる。


 このときレドックスが語ったことはすべて真実で、誇張なんて何一つなかったことを。


 そして、あのとき。


『ぶちかませ、シャンバラ』


 ギリギリで保たれていた三つ巴・・・のバランス。

 それが大きく、決定的に揺らいでしまったことも。

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