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092.「」


「ねぇレド。あなたって日中、ほとんど家にいないわよね。どこで何してるの?」


 それはあくる日、アルメリアからレドックスへのふとした問いかけだ。



 少し時間は戻って。


「俺も今日からこっちにみつくぜ」


 いきなりそんなことを言い出したかと思えば。

 我が物顔で庭先にゴロンチョ、居座られたのが先日のこと。


「ちょ、ちょっと……ウソでしょ? 住むって此処に? しかも今夜から早速さっそくって……無理よ、部屋だってないし」

「要らねぇよ。ここで寝るからな」

「ここって……まさか庭で寝るってこと!? ダメよ、そんなことしたら風邪引いちゃうじゃない!」

「だから引いたことねぇつってんだろーが」


 そうでしたね……。


 当初はそんな感じで大いに困惑したが。

 結局レドックスは、ガンとしてそこを退こうとしなかった。


「んだよ、クソジャリ。ヤケに慌ててんじゃねーか。俺に居座られたら困ることでもあんのかよ?」

「普通に考えて大アリだから言ってるんでしょ! ここ私の家! プライパシーって言葉、知らないの!?」

「知るか。知ってても知るか。そーいうお行儀イイのは俺に適用されねぇんだよ。昔っからな」

「適用されてほしいのは私よ……」


 良識や常識なんて、今さら彼に求めるだけムダだと悟る。


 馬の耳に念仏。

 そんなフレーズが浮かんだものだ。


「もう……分かったわよ。好きにすれば」

「ハッ、最初からそう言っときゃいいんだよ」


 狼だけど。



 ともかく。

 そんなこんなでナゾに幕を開けてしまったレドックスとのシェアハウス生活である。彼がそうしたがった一番の目的は、やはりアルメリアが逃げないように見張ることだろう。


 10勝8敗。

 アルメリアの体調不良を理由に中断されているワンオンワンがあるのだが。


「このままウヤムヤにされてたまるかよ。勝ち逃げなんざ許さねぇ」


 そんな言い分で、どうしてもちゃんと決着を付けたいらしくて。


(私からすると、もう完全に勝ち目のない泥試合なんだけどなぁ。なんなら弱い者イジメ……)


 途中棄権や降参もついぞ認めてくれず、こうなってしまった。


(でも、とにかく今は……)


 体調回復に努めようと気を取り直す。


「治ったか?」

「ううん、まだみたい」


 けれど数日が経っても、熱はなかなか引かなかった。


「治ったよな?」

「うんと……まだかな?」


 ぶっちゃけ助かるような、そろそろ治ってほしいような。


「いい加減、治せコラ」

「無茶いわないで」


 そうやってズルズル、日々は過ぎていった。



 ――で、冒頭に戻るわけだ。

 屋内と屋外に生活スペースはしっかり分かれているし、レドックスは日中ほとんどどこかへ出かけているが。


 気付けば1ヶ月近い付き合いにもなって。


(なんだかんだお互い、気心も知れてきてる……わよね?)


 疑問系ながら、アルメリア的にはそんな風にも思い始めていた。

 言葉を交わす頻度こそ、ポツポツと日に数回程度だし。


「気晴らしに今日、少し散歩するかも」

「逃げたら犯す……ッ! いいな?」


 相談したら、とんでもない脅しもあったけれど。

 命までおびやかされるような心配は、もうさほどしなくてよいのではないかと。


 せっかく一緒に生活してるなら、仲良くやっていきたいと素直な気持ちもあって。


 それであくる日、話しかけてみたわけだ。


「ねぇレド。あなたって日中、ほとんど家にいないわよね。どこで何してるの?」

「あァ?」


 するとまぁ、早速ぶっきらぼうに返される。


「なに人の名前、勝手にちぢめてやがる」


 そんな反応になるのもまぁ仕方ないだろう。

 思い切ってその呼び方をしたのはこのときが初めてだし、わりと唐突だったから。


 でもべつに深い意味とかはない。


「なんていうか……あなたの名前、レドックスってなんかちょっと呼び辛いのよね。そっちの方が個人的にはしっくりくるし……それにほら、短い方が楽じゃない?」


「ほらじゃねぇよ。人の名前に笑顔でケチ付けんな。ったく、どいつもこいつも」


「もしイヤなら、控えますけど……。うん……? てことは他にもそう呼んでる人がいるの?」


「兄貴の片っぽがな」


「へぇ、じゃあもう一人のお兄さんは?」


「フツーに呼び捨てだ」


 そんな雑談を挟みつつ。


「カッ、まぁいい。呼び方なんざ好きにしろ」


 それからレド呼びとなった。


「やった。じゃあ私のこともアルでいいよ。アルメリアって長いし」

「オメェはジャリでいいだろうが。クソジャリぺったんこ」

「よくないし、余計に長いじゃない……」


 で、ようやく本題だが。

 彼が昼間、いったいどこで何をしているのか。

 その答えに触れていくなかで、アルメリアが初めてある魔剣の名を耳にしたのがこのとき。



「シャンバラ……?」



 そして――。

 その後レドックスから語られた内容について、アルメリアはずっと半信半疑だった。


 信じようにもあまりに荒唐無稽というか……。

 現実離れしすぎていて、うまく呑み込めなかったのだ。



「――ぶちかませ、シャンバラ」



 けれどそれも、この瞬間に立ち会うまでのこと。

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