093.「」
もっともアルメリアも、その時点ですべての理解に至っていたわけではない。その意味が結びついたのは、もう少し後になってからのことになる。
「……?」
薄く目を開けたとき、そこにあったのは見慣れた自室の天井だ。
何があったかはすぐに思い出す。
自分がイズンに攫われて、もうダメだと諦めかけていたとき、その窮地にレドックスが駆けつけてくれたことを。
(すご、かったな……)
朧気ながら覚えている。レドックスが錆刀を持ち出したあの瞬間、赤黒い稲妻みたいなのがバチバチと刀身から溢れ出して。
たったの一振りだ。
それだけで破壊の衝撃が余波のように広がり、大地ごとイズンの悉くを瞬く間に打ち砕いたのである。
収束の兆しなく、伝播し続ける暴威に呑まれ。
『……イッ……ギャアアアアアアアーッ!!?』
引き裂かれるイズンの、それが断末魔だった。
そして決着を見届けたところで、たぶん一度ふっと意識を手放したと思う。
その後の記憶はとても曖昧だ。
ただ少しの間、空を見上げていた気がする。
辺りはすっかり暗くなっていた。
夜の森を何かの歩みに合わせて、揺られて。
覚えている。
抱えられている腕がとても大きかったこと。
それが黒い毛並みに覆われていたことも。
何より。
――温か、いっ?
およりとなって、そのときアルメリアはとっさに口を噤んだ。
喉元に指を当て、何事かと確かめる。
口にしようとした呟きが声にならなかったからだ。
まさか……。
イヤな予感はしつつ、もう一度やってみる。
あー、あー……。
「…………」
なんとまぁ。
声が、出ない。




