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089.「」


 ――そう、本当に。


 今にして振り返っても、どうにも不可思議で珍妙な光景だと思う。

 現実味というものが今ひとつ湧いてこない。


 本来的にワーウルフはマンドラゴラの天敵で、食うと食われるの関係だ。

 人狼にせよ、そこは大差ないはずなのだが。


 気付けばその当事者たちの二人――自分とレドックスがこうして、時おり夜の森で落ち合うことがごく当たり前のようになっているのだから。


 なぜこうなってしまったのか。

 発端は彼女だ。



『思い上がるのも大概にしろ、小娘ぇえええええッ!!!』



 イズン・グランローゼ。

 なぜか急激にアジリティの上がったレドックスに対抗するため、一度はアルメリアが助力を求めようとした『死の森』の主。


 そのためのチップとして、アルメリアは自身がマンドラゴラであることを明かしている。ところが思いもよらず、その告白こそが交渉を破綻はたんさせる引き金となってしまった。


 もはや立て直しもきかず、命からがら逃げ延びてきたわけだが。


 そう。

 一度は振り切ったはずのイズンが、尚もその血を求めてアルメリアを追ってきていたのである。


 逃げる際にマーキングされていたこと。

 地の奥底からゆっくりと危機が差し迫っていることに、アルメリアは微塵も気付けていなかった。そのまま連れ去られて、まぁソフトな言い方にしてもかなりひどい目に合わされてしまう。


『ハァ〜、ようやく大人しくなったのかい。散々手間をかけさせた挙句、最後までピーピー鳴き喚きやがって。まったく、耳障りったらないよ。それとも……まさかまだ身の程が理解できてないとでも言うつもりかねぇ?』


 傷を付けられた報復だろう。

 イズンは執拗に、容赦なくアルメリアを痛ぶり付けた。


 荊で手足を絡み取り、打ち据え、なぶる。

 ゲラゲラとわらいながら、皮と肉を裂いていく。


 スクリームは本能的なものだ。

 抑えようとして抑えられるものではない。

 それが絶えたのは、もはや声を絞る力さえ尽きたから。


『言ってやったろうが。アンタは家畜さ。ただ血を搾り取るためだけに生かされる憐れな家畜だよ。二度と逃げられない、逃がさない。首輪をはめて、一生そこで飼ってやる。このアタシに盾突いたことを、死ぬまで後悔させてやるからなぁあああッ!!?』


 そして最後は――。

 うねる荊の海に、ゴミのように打ち捨てられる。

 見せしめのように吊し上げられ、晒されて。


 朦朧とする意識のなか、すべてを諦めかけていたときだ。



『――何を勝手にくたばりかけてやがる』



 その先はさっき、ライナルトに打ち明けたこととも重なる内容。


『そのとき、レドが来てくれたんです』


 これは後に分かったことだが……。

 レドックスは当時、アルメリアが逃げたと思ったらしい。


 彼はアルメリアとの決着を望んでいた。

 体調不良を理由に延期されてきたが、なかなか治らないから、痺れを切らして引越しまでしたし。


『もし逃げたら犯す……ッ! いいな?』

『ついに言ったわね……。いいわけないでしょ。ていうか、仮にも病人に向かってなんてこと言うの……』


 そうとも言いつけていたのに。

 帰ったらいない。帰ってこない。


 どこいってたのかと現行犯で問い詰めるためにズカズカと家に上がり込んで居座るもチクタクと時計との睨めっこはものの数十秒で我慢の限界を迎えて。


『おーし。コイツで決定だぜ、あのクソジャリ……』


 こめかみがブチブチブチン。



『ブチ犯すッ!!!!!』



 それで追ってきた。

 夜になるのを待って獣化したあと、鼻でアルメリアの匂いを辿って。


 そして、そのまま――。


『イズンをやっつけちゃったんですよね』


 いったんことの顛末だけ語るなら、つまりそういうことだった。

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