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082.「」


 やたら気さくかつ、自然体に声をかけてきたので誰かと思ったら。


「よっ。久しぶりだな、アルさん。こうして顔を合わせるのは、闘技場のとき以来か」


 相手はまさかのライナルトだった。

 ちなみにこれは今夜のパーティで、アルメリアが一番避けたかった遭遇エンカウントだ。


 理由は単純。

 彼の言葉どおり、あの日を最後に会っていなかったからである。


『もし今日のところは何も聞かず、このまま帰してくれるなら、この毒消しポーションを差し上げましょう』


 一時凌ぎにしろ、それで難を逃れたっきりだった。




『あーもうどうしよう! お兄さんたちにバレちゃったよ! 今は誤魔化してるけど、次に問い詰められたらなんて言えばいいのか分からない! ねぇレド、どうしたらいい!? なにかうまい言い訳とかないかな!?』


 あのあとレドックスにも軽く、対応策の相談はしてみたけれど。


『カッ、んなもん決まってんだろーが。クソほど簡単な話だぜぇ?』


『あるの!?』


『バカが。こーゆーときのジョートー手段つったら1つしかねぇだろうが。しゃーねぇな、教えてやるよ。……ダンマリだッ!』


『……へっ?』


『なに聞かれてもシカトぶっこいてりゃあ、アイツらだって手出しできねぇ。ケツ穴締めて、無ぇ胸グイっとエラそうに付き出しときゃいーんだよ。仏頂面ぶっちょうづらだってお手のモンだろーが。……カッ、そうだそのツラだ。ムスッとしたままデンと構えとけ!』


 自信満々そうに何を言い出すのかと思えば、実入りがないなんてものではない。


『おうコラすっとこ。分かりやすく聞くんじゃなかったみてぇなツラかましてんじゃねぇぞスカポンタン。人からアドバイスもらったらありがとうございますがジョーシキじゃねーのかよ?』


『はいはい、ありがとうございますー。聞いた私がバカでしたー』


 それで結局、今日までズルズル来てしまっている。


『チッ、めんどくせぇな。だったらもういっそ、何もかもゲロっちまえばいいだろーが。ラクになんぜ』


『それだと私にとっては死活問題だから困ってるんですー。とにかく』


 いったん立ち止まり、腰に手を当てがいフンス。


『話がややこしくなる予感しかしないから、この件についてはレドからは何も言わないこと! 助けに来てくれたことは嬉しかったけど、分かった?』


 ビッシと指を突きつけるアルメリアだった。


『言えつったり言うなつったり、注文ばっかじゃねぇか。口うるせぇトシマか? おまけにケチばっか付けやがる。ケチマか?』


『分・か・っ・た・の?』


『いやヘチマだったか! カカッ、コイツぁいい!』


『なに一人で笑ってるのよ……』


 だからライナルトからすると、いろいろと気になっていることだろう。


 とくに自分がレドックスと出会ってからひっそりポーション屋を始めるまで、空白の時間に何があったのかと。


 ぶっちゃけ隠し立てるほどのことはないのだ。

 でももし話すとしたら……。


(私のルーツがマンドラゴラって辺りが、どうしても避けて通れないのよね……)


 故にアルメリアはすぐに、その場を離れることに決めるのだった。


「こんにちは」

「おいおい、早速さっそくよそよそしいな。まだ何も……」

「ではさよなら」

「早いっ!?」


 どうせ戦いはもう終わったのだから、あとはシラを切り通しての逃げ切り……も見込めなくはないだろうと。




 ところがここで、あるアクシデントが起こる。




 いま2人がいるのはドリンクバーで、すぐ近くにはオシャレな酒樽の蛇口も備え付けられている。なのでおかわりが欲しくなったら、そこから好きなだけぎ足せるようになっているのだが。


「あれ、なんだこれ」

「どうした?」

「いや、この樽さっき交換してもらったんだけどさ。蛇口が回らねぇんだよ。壊れてんのかな」

「なに? どれ貸してみろ。……本当だ、やけに固ぇなこれ」


 そんなやり取りがあった。

 するとその冒険者は意地になったか、負けじと力を込めフンギギギとどうにか蛇口をひねろうとする。


 一方で。


「…………はぁ」


 アルメリアに秒で袖にされたあと。

 その様子を何となしに見やっていたのはライナルトだ。


 実を言うとライナルトも、ここに漂流した経緯はアルメリアと大差なかった。

 ジルクリフは休養中で、レドックスはそもそもこういう社交の場にいっさい興味すらない。


 自分も病み上がりだったが……。


(せっかくの祝勝会だってのに、俺たちの誰もいないんじゃ締まらないよなぁ……)


 それで体にむちを打って参加し、挨拶回りを重ねてもうヘトヘトになっていたのだ。そこに見つけたのが、同じく疲れた様子でいるアルメリアだった。


 なんだかとっても親近感が湧く。

 ちなみに弟たちがいない分、アルメリアもこのパーティにおける立派な主賓しゅひんだ。


「おい見ろ、ライナルトさんが……」

「おっ、もしかしてアルメリアちゃんと話すのか?」


 視線もいくらか集まっていたもので、このまま二人で話していればしばらくは落ち着けるだろうと踏んでいた。


(やっぱり、悪い子じゃないんだろうなぁ……)


 なんて思いつつ、気さくに声をかけてみたわけだが。


「まさか秒でフラれるとは……」


 それだけに残念さもひとしお。


(やっぱりだいぶ警戒されてるな。でも無理に追いかけたりしたら、余計に嫌われるだろうし……。仕方ない、ここは諦めるしか……)


 そんな折のことだ。

 ゴキュっと変な音がしたのは。


「どわっ、なんだこれ!?」

「バカ、早く閉めろ!」

「そんなこと言われたって……! 止まんねぇよぉ!」


 壊れた蛇口からプシャアアッと勢いよくビールが噴き出し、ビシャビシャとシャワーのようにアルメリアへと降りかかったのである。




 そしてこれが最後だが――。

 アルメリアは雨が好きだ。


 植物のサガみたいなものかもしれない。

 雨に打たれると、気分がとっても晴れやかになる。


 傘をさすのなんか勿体もったいない。

 人目がないものなら、たちまち空を見上げてクルクル回ってしまいたくなる。


 それくらい雨が好きなのだ。

 海からやってくる雨には、とても深い水の魔力が宿っているから。


 ついでにもっと大好きなのは。

 温泉――とりわけ足湯だ。


 地下深くを巡り、湧き出す温泉には、とっても逞しい大地の魔力が宿っている。


 すなわちそれは、大地の魔力を宿す水なのだ。

 魔樹にとってこれほど豊かな恵みはない。

 足をチャプチャプと浸せば、身に染みて実に心地よい。


 だが……。


 ビッシャアアアッ!!!


 いまアルメリアが浴びているのは、雨でも源泉でもない。



 酒だ。

 それも単なる酒ではなく、酩酊めいていの魔力が込められている。


 実を言うと。

 水に溶け込んだ魔力は、とりわけアルメリアの体に入っていきやすかったりした。


 だから即効で回る。

 世界も廻る。


 何が起こったのか分からない。

 分からないまま。


「…………ぴっ?」


 ピュー、ドテン。

 アルメリアはその場に卒倒する。

 そのままヘソ天バンザイし。


「わっ、アルっ!? どうしたの!?」

「アルメリアさんっ!?」


 あう〜とグルグル、目を回すのだった。

今さらではありますが、パート5までお付き合いいただき、ありがとうございました。


擬人化したマンドラゴラが自分の作ったポーション壊されてブチ切れたら面白いかなぁとか考えたのがこの物語のスタート地点だったりします。


タイトル的にはもうやること終わってるのですが、まだもう少し続きますので、良ければこのままお付き合いいただけたら嬉しいです。

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