080.「」
これはある一人の少女が、街でポーション屋を開くより少しまえの話だ。
ちなむとその少女はただの人間ではない。
神秘の魔樹、マンドラゴラをルーツに持つというとてもレアで特異な存在である。
幼いころには森でひっそりと暮らしていたこともあった。
ところがある日、冒険者に見つかり保護されたのをキッカケに、少女は付近の街にあった養護施設へ。
どこにでもいる普通の、人間の女の子として育てられることになる。
そうしてスクスク育つこと十年。
アルメリア・リーフレット。
そうと名付けられた少女は――。
(今まで考えたこともなかったけど……。もしかして私と同じような子が、他にもいるんじゃ……!?)
そんな思いに突き動かされ、旅立ちを決意するのだった。
だったが……。
気付けば今、こんなことになっている。
「やった、ついにやったぞ! 俺たちは魔王軍を打ち破ったんだああッ!」
「酒だ、酒を持ってこい! 今夜が本番だからな! 朝まで飲み明かすぞおおッ!」
「我らがガレイアの三兄弟にカンパーイ!!!」
ジルクリフ・ガレイアが敵軍最後の一人――“戦鎚のグランダム”を討ち果たしたと号外が街に舞ってから数日。
アルメリアが参加していたのは、ギルド主催の祝宴パーティだ。
このところギルドはずっとこんな調子。
賑わいが絶えず、酒や歌、喝采に彩られたどんちゃん騒ぎが連日のように続いている。
金剣のライナルトが"蠱毒のムシウル"を。
銀剣のジルクリフが"戦鎚のグランダム"を。
銅剣のレドックスが"夢喰いのセレビネラ"を。
それぞれ討ち取ったことにより、ついに敵勢が撤退を始めたのだ。
それを受け、街は大きく歓喜一色に包まれたもの。
大通りには色とりどりの旗や花飾りが掲げられ、喜びのあまりワイワイと抱き合っている人たちも大勢いた。
真相はちょっと違うし、もう一人いたはずの"狂哭のグリムガルド"もかなり序盤であっけなく落ちたためか普通に端折られている(というか忘れられている?)けれど。
まぁ細かいことはいいだろう。
ともかく今日がその勝利を祝う、正式な打ち上げの日となる。
正直……。
アルメリアとしては、こうした騒がしい空気はあまり好みではない。
どちらかと言えば飲み食いより、風流な温泉地などでチャプチャプと足湯に浸かっているとかの方が好きだ。
楽しいし、気持ちいいし、よほど性に合っている。
だからできれば、やんわりご遠慮したかったのだけれど……。
『なに言ってんだ! アルメリアちゃんはこの戦いの立役者だろうが!』
『そうだ、あんたがいなかったら今ここにいない奴だって大勢いる! 来てくれなくちゃ始まらねぇよ!』
『なっ、この通りだ! 頼むよ、アルメリアちゃん!』
常連さんたちからのプッシュがすごかった。
『いいじゃねぇか嬢ちゃん、顔くらい出してやりゃあ。あんだけ働き詰めだったんだし、今さら急ぐ用事があるわけでもねぇんだろ?』
『それはまぁ、そうですけど』
いろいろ助けてもらった八百屋の店主(スーランパパ)からも背を押され、結局はしぶしぶ参加することになる。
『でもパーティっていっても、普段の格好でいいのよね?』
『もちろん構わないと思いますが……せっかくですし、少しくらいおめかしなさってもよろしいのでは?』
『うーん、でも特別な服なんて持ってないしなぁ……』
『そういうことでしたら、どうぞこの私めにお任せください!』
『えっ?』
『アルメリアさんは素材が素晴らしいですもの。腕によりをかけ、ばっちり仕立てて見せますわ!』
あまり気にしたことこそなかったけれど。
そういえばティーンレイク家のお嬢様だったギルダも何やら張りきっているのだった。
とまぁ、そんなわけで今に至る。
華やかでありながら過度に飾りすぎず、どこか慎ましさをのぞかせる素朴な装い。
ギルダによると、そうした趣向のコーディネートであるらしいが。
「うぅ、なんか落ち着かない……」
すっかりエプロン姿が定番となっていたアルメリアにとっては、どこか気恥ずかしくもある格好で列席していた。
低めにしろ、ヒールを履くのなんて初めてだし。
「ねぇこのチョーカー……っていうの? ほんとに似合ってるのかな?」
「もちろんですわ。胸を張ってくださいまし」
何度確認しても、やっぱり自信なんて持てなかったが。
「わぁ見て見て、お肉もお魚もいっぱいあるよ! これなんか見たことのない料理、なにかな!? ねぇってば二人とも!」
道連れにしたスーランが、目をシイタケにキラキラさせ、いつもの明るさを振りまいている。
その様子に毒気を抜かれた。
「さ、ここまで来たらあとは楽しむだけですわ。スーランさんを見習って、せっかくですから食べれるうちに食べてしまいましょう。きっと今のうちですわよ。あなたにお礼を伝えたい人が、ここには大勢いるでしょうから」
そうして手を引かれるように、しばし。
「……うん」
アルメリアもまた、賑わいと歓談のなかに身を委ねるのだった。




