078.「」
まずもって、なぜまだムシウルが生きているのかだが。
理由は単純で、あのときアルメリアが倒した虫たちがムシウルの総数ではなかったかららしい。
ムシウルは小さな虫の集合体だ。
だから一部を予め、安全なところに退避させてあったとのこと。
それに加えて。
「あの夜、僕は銅剣の足止めも並行してやらなくちゃいけなかった」
「銅剣……ってたしかレドのことよね。あそっか、そうしないと数が足りないものね」
「ああ、だからそもそも力を七対三くらいに分けてたんだよ。で、オマエが仕留めたのはそのうちの七の方だ」
「なるほど……。それで三の方が丸々、手付かずで残っちゃってたわけか」
「……そういうことだ」
それがムシウルがまだ存命であった理由。
「今のところ辻褄はあってそうね。オーケー、とりあえず信じましょう。じゃあ二つ目の質問だけど、何しに来たの?」
「…………」
「せっかく生き延びたんだから、バレないうちにそのまま逃げちゃえばよかったじゃない。寝首をかきにきたにしてはお粗末っていうか、あっさり降参しちゃってるし」
「それは……」
スプレーをシャカシャカシャカ!
「あああ分かった話す! ちゃんと話すから待て、それはやめろ!」
そして、ムシウルは意を決したように言う。
「何しに来たもなにも、そもそも僕は自分の意思でここにいるわけじゃない。他にどうしようもないんだ。オマエの傍から離れられなくなったんだよ」
「離れられなくなった……? どういうこと?」
「正直、これは僕にもまったく意味のわからないことなんだが……。そもそもオマエ、蠱毒ってどんなものか分かってるか?」
「何って……よくは知らないけど、あれでしょ? 同じ壺のなかにたくさんの毒虫たちを入れて戦わせて、最後に生き残った1匹が最強の毒虫で……みたいな?」
「中途半端だが……。まぁ、それだけ理解してれば説明には十分か」
やがてムシウルの口から語られたのは改めて、彼の根底にある"蠱毒"というシステムについてだ。
ムシウル曰く、いまアルメリアが説明した蠱毒と、彼の"蠱毒"は少し異なる。
彼はあらゆる毒蟲の集合体とのことだ。
壺の中かどうかはさておき、共喰いのなかで互いを吸収し合い、同化しながらやがては「ムシウル」という存在を形作するに至った。
「あー、つまりあれかしら。遊びで言う、ジャンケン列車みたいなものってこと?」
「あ、ジャンケン列車……? なんだそれ」
「知らない? みんなでジャンケンして、負けた人が勝った人の肩に手を置いて、後ろに付いていくの。で、最後に一番先頭に立ってた人が勝ち。子どものころとかにやらなかった?」
「やるか。だいたい僕に子どもの頃なんかない。……だが、例えとしては悪くないぞ。まさにそれだ」
「えっ?」
「オマエが僕を潰した。だから僕は、オマエに付いていかなくちゃいけなくなったんだ。蠱毒のルールとして」
つまりアルメリアがジャンケンでムシウルに勝ってしまったがために、列の先頭に押し出されたと。
そういうことらしくて……。
「ちょ、ちょっと待って……」
いろいろツッコミどころが多かった。
まず当たり前だがアルメリアは毒蟲ではない。
次にムシウルにしろ、まだ生きている。
3割くらい残ってるとかさっき言ってたのに。
「どういうこと……?」
いや、勝手に付いてこられても困るんですけど……。
それがアルメリアの正直な感想だった。




