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074.「」


 おそらくこの岩窟は、グランダムの存在ありきで成り立っていたのだろう。


 だからあるじを失ったいま、崩壊しようとしている。


「もうすぐ此処が崩れます」


 言ったそばからゴゴゴゴと全体が揺れ出し、岩壁がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。


「ほら早く、急いで急いで!」

「構うな。一人で歩ける」


 やがては天蓋てんがいからもズシズシと大岩が振るい落ち、崩壊はいよいよ本格的なものに。


 その最奥では、なおもこちらに背を向ける格好でグランダムの石像が鎮座ちんざしている。


「…………」


 アルメリアは最後に一目だけ見やり、ジルクリフの背を押すようにその場を後にするのだった。




 結局、ジルクリフは自力では出られなかった。

 仕方ないので途中からはサポートしてやり、しのごの言ってられなくなったら木の根を巻き付かせて無理やり地上まで引っ張り出す。


 最後はズシィンと地響きとともに、土埃を吹きだすように岩窟が崩壊。


「ふぅ危なかった。ギリギリ出られましたね」


「…………」


「ところで何か言うことは?」


「疲れたな」


「違います。ヒントをさしあげましょうか」


「要らん」


「お礼です。それも誠意と真心のたっぷりこもったとびっきりの感謝を。さん、はい」


「…………」


「助けてくれて?」


「……ああ、そうだな。感謝の言葉もない」


「あの……それどっちの意味で言ってます?」


 言葉で表現しきれないのか、"で感謝の言葉が無い"を表すそのままの意味か。

 無愛想なトーンからして、間違いなく後者だろう。


 素直じゃないのベクトルこそ違うが。


「なんかもうレドにそっくり……」


「なにか言ったか?」


「あなたの弟さんによく似てますねと言いました! もお〜、そっくり! そのまんま!」


「バカな。誰があんなたわけと……ぐっ!」


 傷の痛みに喉を塞がれたのだろう。

 持ち上げかけた首をドッと落とし、諦めるジルクリフだった。


 そこに「あらぁ?」とアルメリアが目をつける。


「まあ、ずいぶんと傷が痛むご様子ですこと。ちゃんとお一人で帰れまして? きちんとお礼を言えたなら、帰り道まで付き添って差し上げてもよろしくてよ?」


「なんだ突然、その気持ちの悪い喋り方は……」


「……ほんとに兄弟そっくりね」


「構わん。さっさといけ」


「強がりで命を落とすなんてバカげてると思いますが? ……ていうか、さっきから本当に言ってることが弟さんと同じなんですけど。なんで? シナプスでも繋がってるの?」


「ふん、くだらん。見え透いたデタラメを」


「本当のことなんだけど……」


 結局、信じてもらえなかった。




 さておき。

 ジルクリフが構わんと言ったのは、強がりや意地を張ってのことではないらしい。


「え、もうすぐここに冒険者たちがくる?」


 とのことだ。


 聞けばこの岩窟に入る際にライナルトへ連絡を入れ、位置情報とあわせて応援を要請していたらしい。


「要はすっかり、私の尻尾を掴んだつもりでいたと、そういうことですか?」


「念のためだ」


「……ちょっと待ってください。じゃあもし私があなたを見捨てたりしてたら、私がもっと怪しまれてたかもしれないと?」


「……まぁ、そういう展開もあったかもな」


「なんという!」


 信じられないと気持ちで立ち上がるも意に介さず、どこか開き直ったように振る舞うジルクリフだった。


「とにかく――もう行け。おまえがここにいれば、また話が色々とややこしくなるだろう」


「あなたのせいでややこしくなったんですけど、ちゃんと自覚ある?」


「あの状況では勘違いするなという方が無理な話だ」


「確かにそれはそうかもですけど、なんかスッキリしないなぁ……。ま、いいや。ではお言葉に甘えて、私はここらで退散させてもらいますよ。ご親切にどうもー」


 そうしてアルメリアはその場を後にするのだった。

 しばらくしてジルクリフも位置を報せる雷撃を、持ち上げた銀剣アルシャジオの切先から打ち上げる。


「……っ」


 痩せ我慢もさすがにそろそろ限界だ。

 きしむような痛みには思わず呻き声を漏らしたし、救助が来るまでやっぱり信用しきれないアルメリアにも思うところは様々あったが。


『あなたの弟さんによく似てますねと言いました! 』


「デタラメを……。そんなことがあってたまるか」


 そこの真偽だけは微塵みじんも疑ってはいなかった。

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