071.「」
「フ、フハ……フハハハハ……!」
8本もあった自慢の戦鎚。
その悉くを取り上げられてなお、グランダムは余裕を崩さなかった。
たちまち地下空間に響いたのは、クツクツと豪勝な高笑いだ。
「終わり……? 終わりだと? 笑止! この局面をして何が終焉であるというのか、嗤わせるなッ!」
吐き捨てるように続ける。
「認めよう、汝の弄した策は確かに見事、巧みであった! このように膝まで地に屈せしめられた以上、もはや否応はあるまいッ!」
「さようでこざいますか。それはたいへん潔ろしいことで」
「しかし汝はここから如何にするつもりだ!? たとえ動きを封じたとて、この鉱鎧を破れぬ限り我は倒れぬ! 現に貴様は今なお、この身に傷ひとつ刻めておらぬではないか!?」
「…………」
「それでいながら終わりなどとは笑止千万!! 愚の……ッ!?」
がなり散らすようなグランダムの轟声が、そこで止まった。
「……っ!?」
そうして自失したかのように、広げられた己の躰を見下ろす。
気付いたのだろう。
いま自身に静かに忍び寄り、ジワジワと来たされている変調に。
「どうかされました?」
「貴様……何をした……?」
「さぁ、何のことだか」
「言えええッ! 何をしたのだああッ!?」
「仕方ないですね、ではタネ明かしといきましょう。いいですか? 文字どおりの、"種明かし"ですからね?」
ニコニコ笑顔でそんな言い回しをしたのは、さっき講じておいた策の二つ目に裏打ちされる。
「私も認めましょう。さすがに自慢するだけあって、あなたの体はとても堅かったです。まさかこの子でも太刀打ちできないなんて正直、かなり驚きました」
"この子"と示したのは、すり寄ってきた妖華の触腕だ。
「はいはい、お利口さんでした」
そう労いを込めてヨシヨシしてやりながら、アルメリアは続ける。
「だからやり方を変えることにしました。あなたの体表に、いくつかこの子の種を植え付けておいたんです」
「種……だと……?」
「そう、魔樹の種です。ちなみに知っていますか?」
人差し指を立て、アルメリアがレクチャーしてみせたそれは魔樹のちょこっと豆知識だ。
「魔樹ってとても魔力が芳醇な土地じゃないと、なかなか育たないんですよ。でも逆に言えば、魔力さえあればほぼどこでも育つんです。たとえ水や日光がなくても、根を張れる土さえあればね」
なぜ知っているのかと言えば、アルメリアもまた魔樹であるマンドラゴラルーツだからに他ならない。
「つまり魔樹はみんな、土属性の魔力が大のお気に入りなんです」
その点も含めてアルメリアも一緒のことだ。
芳醇な土属性の魔力があると伸び伸びできて、とてもいい気持ちになれる。
だからたまに息抜きとして吸い上げていたりもするわけだ。
「まぁ水草タイプになると、また話も変わってきますが。さておき」
ここいらで話を本題に戻そう。
「グランダムさん、あなたの魔力も土属性ですよね?」
「ま、さか……」
ここまで言えば、さしもの彼も察しが付いたらしい。
「聞いたことはありませんか? 植物は日の光を浴びるためなら、ときに硬い岩盤すら突き破るものですよ。そして――」
自身を蝕む変化の正体。
その問いかけこそが答え合わせだ。
ピシピシ、ペキ、パキン……!
最初はほんの小さな音だった。
耳をあて、じっと澄まして聞き取れるのがやっとなほどの。
けれど。
「そこに栄養豊かな土の魔力があると知れば、彼らは今度、ひたむきに根を伸ばすのです。水が地へ染み込むように、わずかな綻びさえも掘り崩し、奥へ奥へと。もう分かりますよね?」
ビシビシ、ベキ、バキン……!
それはみるみる大きくなっていく。
「そんな、馬鹿な……」
「さて、ようやく分かってもらえたところで……。もう一度だけ言いますよ、戦鎚のグランダムさん」
小さな綻びは瞬く間に広がり、確かな崩壊の兆しへと姿を変え。
「まさかああああああッ!!?」
ガキン……ッ!
ついに決定的な破砕音が場を鋭く震わせた。
「――これで終わりです」




