121.「」
ライナルトからの呼び出しを受け、アルメリアが息を切らせながら駆け込んだのは冒険者ギルドの集会所だ。
いまは緊急避難が呼びかけられ、冒険者や兵士を除く要塞にいた者たちの大半はすでに退避を終えている。
そのためギルドは薄暗く、受付カウンターも含めて、人の姿は見えない。屋内はほぼ無人となっているのだが。
「あっ、いた!」
そこに二つほど人影を見つけ、アルメリアは足早に駆け寄りながら声をかける。
「ライナルトさん! それにジィィィ」
「……?」
「ルクリフさんも!」
そう、そこに居たのはライナルトとジルクリフ兄弟の二人だ。
後半は変に間延びしてしまいつつ、どうにか呼びきって合流した。
「なんだ、今の妙な伸びは」
「いえ……。そういえばちゃんとお名前呼んだことなかったもので、つい……」
たじろいでしまった。それはそうだ。
なにせこれまでジルクリフと顔を合わせたときと言えば必ずサシだし、しかも決まって出合い頭から刃を差し向けられる展開が常だった。
例外は前回の謝罪時くらいしかない。
その自覚も十全にあってだろうか。
「……そうか」
ジルクリフもとやかく言わず、気まずそうに目を伏せていたわけだが、さておき。
「とにかくすみません、お待たせしました! それで、状況は!?」
さっそく本題に入る。
「正直、あまり芳しくない……」
そう応じたうえで、ライナルトが展開したのは改めて現在の要塞ギルドを取り巻く状況だ。
まずこの行軍が明らかに、セレビネラの能力によって引き起こされていること。
「事後報告ですまないが……。こないだアルさんが話してくれたセレビネラの件については、今ジルにも共有させてもらっていたところだ」
「構わないです。話すまでもなく、もう分かりきっていることですからね。でもまさか、本当に生きていただなんて……」
「しかし一体なぜこのタイミングなんだ? 死体まで操れるなら、もっと良い頃合いが他にいくらでもあったはずだろう」
「いえ、動かせる死体の数はそこまで多くないみたいです。本体が直接取り憑いていない限り、時間制限もあると」
「時間制限……?」
「セレビネラのこのやり方はあくまで、生きている手駒が少なくなったときに使う非常手段。かなり長いあいだ溜め込んでいた魔力を使わないとできない奥の手、だそうで……」
沈黙。
状況が状況だったので口早に知っていることは明かしたが。
不可解そうに、二人が目配せを交わした意味は明らかだ。
「なんでアルさんは、その……そこまでセレビネラのことについて詳しいんだ?」
尋ねてきたのはライナルトである。
そもそもセレビネラ生存説にしろ、明かす際に情報源は伏せさせてもらっている。
ともすれば、そうした疑問に至るのも当然ではあるが。
「その話は……すみません、後にしましょう。今は時間が――」
そう切り抜けようとしたところ。
「そうだ、時間がない! もう一刻の猶予もないから教えてほしいんだ!」
いっそう逼迫した様子になって、続けてライナルトから遮られる。
ギャグ的な場面はともかくとして……。
普段は滅多なことでは感情を乱さない男だ。
だからこそ、アルメリアも思わず戸惑う。
それは実の兄弟から見ても同じだったのだろう。
「ライナルト……?」
焦った彼の顔付きに、いったいどうしたのかとジルクリフもまた驚きに目を見張っていた。
「すまん、取り乱した」
「いえ……」
無理もないこととは思う。
レドックスが消息を絶って、もう三日だ。
彼の行きそうなところはすべて探したが、今もまったく足取りは掴めていないまま。
『あいつに限って滅多なことはないさ。そのうち、ふらっと帰ってくるだろ』
そう気丈に振る舞っても、日を追うごとに心配は募ったはず。
昨日に至ってはレドックスの付けていた首輪だけが、森に落ちているのが見つかって……。
その矢先に、この行軍だ。
心中を慮り、かける言葉を探しかけた、そのときだ。
「レドなんだ……」
「……え?」
「なに?」
アルメリア、そしてジルクリフもまったく予期していなかった事態が、ライナルトの口から明かされたのは。
「いま、セレビネラが取り憑いているのは……レドなんだよ……」




