122.「」
セレビネラの話題を介し、ライナルトが改めて沈痛な面持ちとなって語ったこと。
それは現在ギルドの置かれている状況と、敵勢を率いる頭目の存在についてだ。
森の奥では今も、魔物たちの復活は続いているようだが。
ライナルトは静かに告げる。
その中心にいるのは、今なお行方不明のままとなっているレドックスであると。
嫌な予感はしていた。
レドックスの消息が途絶えたことと、その直後に始まった侵攻――両者が無関係であるはずがない。
偶然のはずがないと、わかってはいたが……。
「間違い、ないんですか……?」
「報告によれば、屍たちを率いているのはシャンバラを手にした黒い毛並みのワーウルフだそうだ。そんなのもう、レドしかあり得ないだろ……」
「だが、どういうことだ? あいつは一度、セレビネラの寄生を振り解いているはずだろう。それが何故……」
「それが分からないから参ってるんだ。あるいは……もしかすると敵はセレビネラですらないのかもしれない」
「どういうことです? セレビネラじゃないって……」
「――シャンバラだ」
アルメリアの疑問に、ライナルトはわずかに間を置くようにしてから重く答えた。
「話では、レドはシャンバラを抜いたまま進んでいるらしい。魔物たちが復活している以上、黒幕にセレビネラが潜んでいること間違いないだろうが――。でも奴が抜いたシャンバラの精神支配まで退けられたとは、俺には思えないんだ」
つまり――。
「セレビネラがレドに取り憑いて体を乗っ取ったあと、今度はシャンバラがセレビネラを支配した……そういうことですか?」
「そうじゃないかと、俺は考えている」
たしかにあり得ない話ではなかった。
(だけど……)
どこか引っかかる。
しかしその違和感を言葉にする前に、焦りを滲ませたライナルトから体を揺らすようにして訴えかけられて。
「だから頼む、もし知っていることがあるなら話してくれないか!? 後じゃダメなんだ! 今じゃないと……手遅れになるかもしれない! レドも、他のみんなも……!」
そう。
兄として、ギルドの責任者として。
迅速かつ適切な判断がいま、求められている。
迫られている。
それがさっき、ライナルトがあんなにも取り乱した様子を見せた理由なのだろう。
「今はまだ何とか持ち堪えられてる! けどこの先、もし他の幹部格たち――ムシウルやグランダムまで復活するようなことになったら、もう俺たちだけじゃ対処しきれない! レドだって居ないんだ……それどころか、いまは敵に回ってる!」
だから今、彼はこんなに必死に食い下がっているのだ。
「どんなに小さなことでもいいから!」
本当に、必死に……。
「俺が席を外せば話せることか?」
「いえ、そういうわけでは……」
ジルクリフの問いかけにも惑い、口篭ったときだった。
「――長兄、ライナルト・ガレイアよ。その懸念、無用と断ずる」
厳かな声とともに、ミシリ。
集会所の床が大きく盛り上がり、次の瞬間、ミシミシと音を立てながらひび割れ、裂けていったのは。
「なッ、貴様は……!?」
「待って!」
急転直下の事態に、ジルクリフが反射的に剣を抜きかけ、アルメリアが制止の声を張り上げる。
そして、その呼びかけにいち早く反応したのは――。
『お待ちください、ジルクリフ様ッ!』
ジルクリフの精神領域から、銀剣アルシャジオだ。
抜剣されることを拒み、主人の動きに歯止めをかける。
一方でジルクリフ自身もまた、すぐに冷静さを取り戻し、剣気を鎮めていた。
ライナルトも抜剣こそしたが、問答無用に切り掛かりはしない。
ようやく解を得たからだ。
「冗談キツいが、そういうことか……!」
セレビネラについての情報を、アルメリアがどこから得たのか。
明かせなかった理由も。
その大きな手の後ろにアルメリアを庇うように、天井ギリギリ。跪くような体勢で、やがてその姿を現したのは六つ腕の巨人だ。
今しがた名をあげたばかりだった敵将の一人――そう。
「すまぬ、アルメリア・リーフレット。我等がために汝を狭間に立たせたこと、深く詫びる」
戦鎚のグランダムが、そこに。




