119.「」
――とまぁ、そんなやり取りがあったもので。
今日びアルメリアは森の奥に踏み入り、セレビネラの痕跡を探していたという次第になる。
『あァ? ビラビラが生きてる? なわけねーだろうが、きっちりぶっ殺したぜ。つっても、こっちにはそのつもりもなかったけどな』
セレビネラとの決着に付いて改めて聞いてみたところ、レドックスはそんな回答を寄越したけれど。
ムシウルによれば、セレビネラは取り憑いた相手の記憶を改竄したり、認識を上書いたりすることもできるらしい。そして実のところレドックスは一度、追い詰めたセレビネラに土壇場で逆襲され、憑依されかかっている。
つまり――。
「セレビネラの死体とかはどうなったの?」
「ねぇよ。力づくで引っぺがしたらボロボロ勝手に崩れて死にやがったからな」
「…………」
その証言が上書きされた認識によるものだとすれば、死を偽装された可能性はたしかにあった。
「つーか聞いたって、誰からだよ」
「ムシウル」
「ムシ……? あァ、ボッチか」
ちなみにムシウルたちの生存については、レドックスにはすでに伝えてあることだ。
そしてコドクという字面が由来なのだろう。
たいへん気の毒なことに、ムシウルについてはすっかりボッチ呼ばわりで定着してしまったが。
さておき。
だから一応、除草剤を持っていったのである。
魔獣など寄生したい相手の脳に種を植え付けて根を張り、思考を操作する。
意のままに操れる傀儡を無尽蔵に量産する。
それがセレビネラの能力であり、この燻煙型のキューブこそが、対セレビネラ用に開発された魔道具だったから。投げつけることで本体を追い出したり、植え付けられた球根を枯らしたりできる。
さらに補足すると、セレビネラ本体の"寄生"はとくに相手が眠っているときだと成功しやすいらしい。また取り憑いている間、ほとんど眠れなくなる。
故に"夢喰い"とのこと。
「そーいうことか。それで寝込みを狙ってきやがったんだな、あのアマ。ったく、どいつもこいつも夜這いかよ。お盛んなこった」
「どいつもこいつもってなに? 他にもそんなことがあったの?」
「あーぁ、毎晩のようにきやがったぜ。気付きゃ人のベッドんなか勝手に潜り込んでやがる」
「ふぅん、そうなんだ……って、ん? ベッド?」
「昼間からやりまくって、あんだけヘトヘトにしてやったってのに。夜になったらまた足んねぇから寄こせとよ」
「…………」
「気乗りしねぇから寝ろつってんのにあんまりしつけぇから、力づくで黙らせてやったぜ。そのままメチャクチャにしてやっても良かったけどな」
「メチャ、クチャ…………」
「つーかなに食いついてんだ。興味津々かよ?」
「だって……! 今って寝首をかかれそうになったって話をしてたんじゃないの!?」
「どうだかな。聞きてぇのかよ? もっと詳しく」
「け、けっこーです!」
「顔赤くしやがって。なに分かりやすくタジってやがる。ウブか? ジュンジョーか?」
「別にそんなんじゃないけど……いや、なくないけど! とにかく、ただちょっとビックリしただけよ!」
「妬いてんのか?」
「ばっ……妬くって何に!? そんなわけ……!」
「妬いてんだろ」
「だから、違っ」
「焼き茄子」
「それが言いたかっただけでしょ……」
ゲラゲラとレドックスは一人で楽しそうだった。
それにしても。
(まさか持ち込んだ除草剤を自分で浴びて、また運び込まれるハメになるだなんて……)
さすがに想定外だ。
まぁおかげでちゃんと首輪を付けてもらえたので、結果オーライといったところだが。
やがて寝支度を整えてから明かりを消し、パタンとベッドに身を倒すアルメリアだった。天井を見上げながら、これからのことについて薄ぼんやりと考える。
結局セレビネラのことは、まだ有力そうな手がかりは何も得られていない。さぁここからが大変だぞという仕掛かりで終わってしまったから。
でもまぁ、そこはまた明日以降に再開していけばいいだろう。
捜査は足で稼げ、というやつだ。
そんなことを考えながら、次第にウトウトして。
(また明日、レドと……)
アルメリアはゆっくりと眠りに落ちていく。
――そう。
このときアルメリアは、微塵も疑っていなかったのだ。
『――また明日』
前日にそう交わして、翌日に同じ時間。
いつもの場所に行けば彼に会える。
待ち合わせられると、そう思っていたから。
ところが、それから数日が経ったあくる日。
いつまで待っても、彼は来ない。
ぽつねんと一人、アルメリアは森に佇んだまま。
「――レド?」
結局その日、レドックスが現れることはついぞなかった。
パート7は以上です。
次話より最終部やっていきます!




