117.「」
夢喰いのセレビネラ――。
それはムシウルやグランダムとともに、このガレイア攻防戦に参陣していた敵軍首魁の一人の名である。
なぜ知っているのかと言えば。
かつてはアルメリアとライナルト、そして件のセレビネラとで三竦み状態みたくなっていた時期もあったからだ。
現に「調子に乗ってんじゃないわよ」みたいな感じで、軍勢を引き連れ乗り込まれたこともあった。
それで一応、面識はある。
能力や人物像、ステータスに関しても、おおよそのところは把握しているのだが。
「なんで……? 本当に死んでるのかって、いったいどういうこと……?」
そのとき眉をひそめ、声を落とすようにアルメリアがそうと問い返したのは――。
「だってセレビネラはもう、レドに……」
そう。
セレビネラはすでに、とっくにレドックスに討ち取られたはずの相手だからだ。
にも関わらず。
「なんでそれが、今さら蒸し返されるのよ……?」
「むしっ……おい、ちょっと待て。まさかオマエまで……」
「え、なに?」
「……いや、何でもない。今のは僕の勘違いだ。気にし過ぎた」
「うん?」
そのときムシウルが何に自制を促し、グッと堪えるようにしていたのかは正直、よく分からなかったが。聞けば少しまえに一度だけ、ムシウルがすでに居なくなったはずのセレビネラの魔力を感じ取ったことがあるらしい。
「それって……レドがセレビネラを倒したのより後ってことよね?」
「あぁ、当然な」
でもそれは本当に一瞬のこと。
霧の扉を風でかき分け、ほんのひととき道を開いたところでまたすぐに立ち込め、視界が閉ざされてしまうように。セレビネラの気配は忽然と消え、追跡できなくなってしまったのだという。
「思った以上に突拍子もない話だったわね。とてもじゃないけど、信じられません」
「だろうな」
「大体、なんでそんなことを今さら話すのよ」
ムシウルによれば、それはだいぶ前の出来事。
アルメリアがレドックスと初めて出会って、質の悪い道場破りよろしく通い詰められていた時期とも重なる話みたいだが。
決して最近でもないので、まずそこに怪しさを感じて尋ねる。
だがムシウルはすぐに答えた。
それは「つい最近にも同じことがあったからだ」と。
「つい最近って、具体的にはいつ?」
「あれはたしか……そう、僕とグランダムが再会して三日目の夜」
「それって……」
祝勝会パーティのあった夜だ。
時間帯で言うと、アルメリアが酒を被ってからレドックスと合流した後。
地点もそんなに離れていない。
(まさか……。あのとき、あの近くにセレビネラがいたって言うの……? そんなわけ……)
「単純に思い過ごしとかじゃなくて?」
「僕も最初はそう思ったさ。でも二度目だ。あり得ない」
「ずいぶん自信たっぷりね。でもそれ、本当に当てになるの? 前に一度、それであなた身を滅ぼしかけてると思うんですけど?」
「…………」
痛いところを突かれたか、ムシウルが不機嫌そうに押し黙る。
「べつに信じて欲しいわけじゃない。オマエがそう思うんなら、僕もこれ以上は食い下がらないさ。話はここまでだ」
プイとそっぽを向かれてしまった。
なんともツッケンドンなことだが。
「……まぁいいでしょう。打ち明けたのがこのタイミングになった理由はそれでいいとして。ではもう一つ」
歩きながら、アルメリアは尋ねる。
核心を突く。
「なんでそれを私に話すの?」
シンプルに疑問だ。
仮にそれが本当だったとして、なぜアルメリアに耳打ちするのか。
「たぶんあなたって、自分のトクにならない限りは絶対に動かないタイプよね? よっぽど強い相手に脅されたりしたら、必死にヘコヘコして言うこと聞くのかもしれないけど」
「オマエ、僕に喧嘩売ってるのか? 売ってるんだよなぁ!?」
「違うの?」
「ウグ……」
「ほら、みなさい。とっさに言い返せないくらいには、ちゃんと身に覚えもあるじゃない」
「べつにいいだろう。オマエに何を話そうが僕の勝手だ。さっきも言ったが、別に信じてほしいわけじゃない」
「私も信じてあげたいとかはそんなに思ってないけど……。というか、できるわけないでしょう。内容が内容だし、信頼関係だってないんだから」
「だから」
「でも、気になるじゃない」
アルメリアは続ける。
「未遂に終わったとはいえ、あなたは私に一度命を奪われかけてる。今でこそ仕方なく協力はしてあげてるけど、まさか感謝なんてしてないでしょう?」
「…………」
「そのあなたが、なんでわざわざ敵に塩を送るようなことをするのか。もし本当にまだセレビネラが生きてるのなら、黙ってた方があなたにメリットだってありそうじゃない。ザマァみろってできるチャンスだって、万に一つくらいは巡ってくるかもしれないわけだし」
「…………」
「ということで、手放しじゃとても鵜呑みにはできないから、検討できるだけの判断材料をちゃんとくださいと言ってます。信じないなら別にいいとか不貞腐れたようなこと言ってないで。もう、小さなお子さまじゃないんだから」
「おこ……!?」
「それとも、ただ匂わせたいだけの"構ってちゃん"なのかしら?」
「……フン」
すると、ムシウルも渋々ながら事情を明かした。
少し間を置いたのは、自分のなかでも考えが纏まりきっておらず、整理していたからかもしれないが。




