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116.「」


「クソが、なんだこりゃ。びくせぇ、鉄くせぇ、邪魔くせぇ上に古くせぇ、イモくせぇキモくせぇ洒落しゃらくせぇ。オイ、やっぱタリィぞこれ。アホくせぇ、野暮くせぇ、どんくせぇ、メンドくせぇ」


「外さないでね」


「肩凝る、首絞まる、歩くたんびにガチャガチャ鳴ってウッセェし、かたよる、こすれる」


「外さないでね」


「ウゼェ、デケェ、重てぇ、ダリィ、ボロい、汚ねぇ、ダセェ、キショい」


「外さないでね」


「おうこら、ニコニコしてんじゃねぇぞ。やっぱオメェが付けろ」


「それじゃ意味ないでしょ」


「…………」


 無言の睨みと圧。

 からのガチャン!


「だから外さないでってば!」

「コツ掴んできた」

「掴まないで!」

「勝手に外れた」

「ウソつかないの。もう、それ自分で付けたんじゃ意味ないんだから。貸して、付け直すから」

「壊れた。壊す」

「いいから渡しなさい、ほら」


 カチャカチャと付け直す。


「はい、できました。もしまた外れちゃうことがあったら、ちゃんと持ってきてね。付け直すから」

「テメェで首輪持ってって付けてくださいってか。女王プレイがご所望かよ? ドエス」

「イヤならもう勝手に外さないでください?」

「……ドエステングダケ」

「ちょっと」

「ドエスクイーンラフレシア」

「やめてってば!」


 もうと呆れのため息。

 ともかく首輪を付け直して間もなくのこと、そろそろ帰ると言うので、バルコニーのところまで送った。


「いい? それ一応かなり危ない魔道具なんだから、失くしたとかやめてよ? あとさっきも言った通り、もしまた外れちゃったらそれ持ってすぐ私のところに戻ってくること。わかった?」


「なんかよオメェ、最近ますますカァちゃんじみてきやがったな」


「どこかの誰かがいつまでも、思春期息子みたいなことグチグチ言ってるからでしょ。で、分かったの?」


「……チッ、付けとけゃいいんだろが。付けときゃあ」


「よろしい。それはそれとして、例の件もあるから一応注意はしておいてね」


「……つっても、結局なんも見つかんなかったじゃねーかよ」


「まぁそうだけど」


「大体、百歩譲ってそーだったとしてよォ。今さらそんなビビることでもねぇだろ」


「でも用心するに越したことはないでしょう?」


「用心ねぇ」


「とにかく気をつけてね、帰り道も。それじゃ、おやすみ。また明日」


「けっ」


 そんなやり取りを挟みつつ。

 ちゃんと首輪を装着したまま、レドックスは森の方角へと姿を消していくのだった。この頃はもうすっかり、野外で寝起きする暮らしの方に体が馴染なじんでしまったそうで。


 その背が見えなくなるまで手を振り、見送って。


「ふぅ」


 やがてアルメリアはくるりときびすを返し、静かに室内へと引き返していく。


 これでようやく来客はすべて、はけた形だ。

 なんだかんだでガレイアの三兄弟と順番に話すことにはなったが。


 ベッドのうえに置きっぱなしだった除草剤キューブを手に取り、コロコロと指先でもてあそびながら。


「…………」


 そのときアルメリアが思案していたのは、今しがたレドックスと示し合わせた内容、その真偽についてだ。そしてついさっき、ライナルトに打ち明けたことでもある。


(レドの言う通り、やっぱり考えすぎなのかな……?)


 そうも思うけれど。

 どこか胸の奥でひっかかる感じがぬぐえなかった。




 ――そう、そもそもの話だ。

 なぜアルメリアが今回、除草剤なんかをたずさえて、レドックスと森の奥深くに出かけたのかということ。


 それは、ある調査のためになる。

 気になるタレコミがあったのは、遡ること数日前。


『おい、ちょっといいか』


 プ〜ンと飛んできたのは一匹の羽虫ハエ――ではなく、ムシウルだ。


 アルメリアとムシウルを線一本分で結んでしまっている"蠱毒の呪い"。それを断ち切るために、彼には少し力を取り戻してもらわなければならなくて。


 それでグランダムとともに、"虫捕り"に少し協力してやっていたのだが。


『オマエに話しておきたいことがある』

『え、私に……?』


 なにやら神妙な面持ちで、ムシウルからそう切り出してきたのだ。


 それもやけに小声で。

 先を歩いていたグランダムを、チラチラと気にするようにもしながら。


『なに? いきなり改まって。怪しいんだけど』

『べ、別に変なことじゃない。ただ気になることを伝えておきたいってだけだ。親切だ!』

『親切ぅ?』


 最初は大いにいぶかしんだ。

 ムシウルから親切がしたいだなんて言われても、ハッキリ言って胡散うさん臭さしか感じない。


 詐欺師が福袋をくれると言っているようなものだ。


『いったいなにをたくらんでるの?』

『何も企んでなんかない!』

『じゃあ何か欲しいものでもあるわけ?』

『オマエはいったい僕を何だと思ってるんだ!?』

『うーん。壮大な悪意の裏で、コソコソ手を回してた小物ブローカーとか、そんな感じ?』

『オマエ……』

『む? 何を語らっておるのだ、おぬしら。さては、なにか面白きものでも見つけたか?』


 途中でグランダム(フルメイルに身を隠してギリギリ人間サイズ)がやってきて、いったん何でもないとやり過ごしたりもしたが。


『で、なに? 親切だか何だか知らないけど、言いたいことがあるならさっさと言えば。信じるかどうかは内容によりますけど』


『ああ、それでいい。これはあくまで僕の個人的な気掛かりに過ぎないからな。ただ……グランダムにはまだ言わないでくれ。ぬか喜びはさせたくない』


『ぬか喜び……?』


 そう前置いたうえで、ムシウルはその可能性を示すのだ。


 それこそがさっき、アルメリアからライナルトにも共有しておいたこと。

 事前に確かめたところ「それはねぇ」と、レドックスがきっぱり否定した内容でもある。



『――セレビネラは本当に死んだのか?』

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