113.「」
「それはそれとして、少しお話があります」
「そうかよ。俺にはねぇな」
「私にはあります。聞いてください?」
「セッキョーかよ」
「そんな大げさなものじゃないわ。ただちょっと、小言……みたいな?」
「一緒だろーが」
「一緒かもね」
「……チッ、なんだよ。さっさと言やイイだろうが。ムダにタめんな」
「じゃあ言わせてもらいますけど」
ようやく観念したレドックスが渋々と受け入れ態勢を整えた、そのタイミングを見計らってアルメリアは口を開く。
「たぶんもう分かってるとは思うんだけどね、レド。まず、人に向かって除草剤を吹き付けたりしちゃダメでしょう?」
「……あんなのはタダの、軽いジョーダンだろうが」
「冗談でもダメです。吸い込んだり、目とかに入ったら危ないんだから。――で」
そこまできっぱりと言い切って、ひと呼吸を置いてからアルメリアは続けた。
「知っての通り、私は半分くらいマンドラゴラ――つまり植物なんです」
「植物人間か」
「意味合いが変わってくるので、ここでは人間植物としますが、とにかく」
「…………」
「だから私には尚さらダメなのよ。除草剤――中でもとくに、水に溶けてるスプレータイプのものはね」
悪気がなかったのは理解している。
とはいえ、結果としてそこそこ危ういところまでいったのだ。
なのでそこだけは一応、念押しさせてもらいたくて。
相変わらずそっぽを向き、しかめっ面のままではあるが。
「ちゃんと洗ったじゃねーか」
「散々冷やかした後でしょ。手遅れでした」
それっきり気まずそうに黙り込むレドックスだった。
まぁ平常運転だと、隙さえあれば軽口か下ネタを乱発してくるこの男が、ここまで耳を貸したのだから十分と言えば十分。
いやむしろ、かなり上出来な方だろう。
なので。
「と言っても、後半はだいぶ特殊な事情なので、私もしつこく言うつもりはありません。なので前半についてだけは、きちんと受け止めてください?」
これ以上はウダウダ言わないことに決める。
「……チッ、やっぱセッキョーじゃねぇか」
「そうだって言ったでしょう」
その悪態を了承と受け取り。
「はい、じゃあこの話はおしまいね」
軽く手をパン。
お開きとするアルメリアだった。
その意味で、ムシウルには悪いことしたなとも少しだけ思いつつ。
「……あれ、そういえばレド。こないだ久しぶりにチョコレートを食べて、気分が悪くなったとか言ってなかったっけ?」
「あァ? 言ったが、それがどーした?」
「それよ、それ!」
より本人向けにピッタリな具体例が見つかったりもしたけれど。
「あとは玉葱とかもそうね。ネギ類は全般そのはずだから、気を付けなさい」
「カッ、もとからそんな食わねーけどな」
追加でありそうな注意事項も挟みつつ、アルメリアは話題を最後に移す。
そう。
「この話はおしまい」なんて言い回しをしたからには、まだ次があるのだ。
いつまでも避けたままにはしておけない……。
そろそろ本当に、何らかの落とし所を探らなければならない、これとはまったく別の話題が。
「それでなんだけど、レド……。あとひとつだけ、いい?」
「まだあんのかよ」
「安心して、これはもう小言じゃないから。ただ、お願いかな。私からレドに……やっぱりこれだけは、どうしても聞いてもらいたくて」
その声音に哀願の響きを滲ませながら、アルメリアはそっとリュックに手を伸ばす。やがてジャラリと、微かな金属音が空気を震わせて。
「あァ、そういうことかよ」
興味を失くしたような反応を示すレドックス。
その眼前に取り出されたのはやっぱり、あの首輪なのだった。




