112.「」
なぜレドックスが微妙にいつもの調子でなく、アルメリアに対してやや腰の引けたような態度でいるのか。
それは当人も少なからず“やらかした”感とか負い目があってのことだろう。だから律儀にお見舞いの品まで用意して、ご機嫌を取ろうとしている。
あまりの分かりやすさに呆れていたところ、「んだよ」ときた。
まったくもう。
(んだよ、じゃないでしょうが)
ジト目を向けつつ。
「とりあえず降りてきたら? 部屋に入ってください? ここじゃ寒いし」
アルメリアが部屋に戻っていくと、レドックスもようやくピョンと降りてきて、それに続いた。ベッドに戻ってから、近くをトントンやって座るように促す。
「はい、座って」
「誘ってんのかよ」
「バカ言ってないで、ほら早く」
いつものように指先をちくりと針で突き、薬の時間であることを知らせた。
面と向かうのがどうしてもイヤだったのか。
結局レドックスは背を向け、どっかと床に座ってしまう。
本当に往生際が悪いというか、まるで反抗期まっただ中のガキンチョを見ている気分にさせられるが。
(もうこの際、座っただけでも良しとするか……)
やれやれ風なため息とともに腕を回し、パクりと咥えさせるのだった。
◆
いろいろあって用心のために持参していたスプレー型の除草剤をうっかり自分に向けて噴射してしまい……その影響をモロに受けた結果、あえなく撃沈した。
というのが少しまえ、アルメリアがライナルトに語り聞かせた大まかな事情だ。
嘘ではない、けれど……。
あえて触れずに伏せた箇所がある。
実を言うと、除草剤は事故でかかってしまったのではない。
かけられたのだ。
そう、レドックスに。
きっかけはアレだ。
例の首輪の件。
結局まだ、アルメリアはレドックスにそれを装着できていなかった。
先日に失敗してからも、何度かトライはしてみたが。
いよいよコツを掴んだか、レドックスは付けたそばから手も使わず、あっさりそれを外してしまうのである。
『レドぉ……』
どう言い聞かせても耳を貸してくれず、やなこったとそっぽを向かれるばかりだった。
それでもと根気強く説得は続けていたのだが……。
たぶんあんまりしつこくされて、嫌気がさしたのだろう。
それでプシュッとひと吹き、やられてしまったというのが、実は事の真相。
悪気はなかったのだと思う。
レドックスとしては冗談とか悪ふざけの延長で、アルメリアにとっての危険性まではまったく理解していなかった。
『カッ、どうしたピィスケ。やけに芝居がかってんじゃねぇかよ。だが残念だったなぁ、その手には乗んねぇぜ。そりゃそうだろーがよ。なんたってソイツぁ、まえに一度俺が仕掛けてやったネタそのまんまなんだからなぁ?』
諦めろ、ピィスケ。
セーリか? ツワリか?
さっさと起きねぇと埋めるぞ?
HPがミリしか残っておらず、こちらは行き倒れ寸前だというのに。
人の頭をピシペシ叩きながら、本当に好き勝手やってくれたものだ。
でも顔色や発汗を見て、やがてそれが演技でなさそうなことに気付いたのだろう。襟首を掴むように引き起こしてから。
『……よぉコラ、ちょっと待て。これ芝居じゃねーのか?』
『だから……そう、言ってるでしょ……』
それを確かめるなり、力任せにグイと引っ張りあげるレドックスだった。一応急ピッチで街まで運んでくれたみたいだが、途中でアルメリアは意識を失ってしまう。
「じゃあやっぱり、それでひとまずスーランに預けたってことなのね?」
「名前は知らねぇよ。とにかくオメェの店で掃き掃除してた女だ。こう髪を輪っかにした……あとなんか幸せそうなツラしてる……」
たぶんスーランで間違いなさそうだ。
これで話は繋がった。
「それで私を預けたあと、レドは何してたのよ?」
「なにって……そりゃオメェ、あれだろ。決まってんだろーが」
「……?」
「いろいろだ」
「とくに何もしてなかったのね」
歯切れの悪さからして、そのようだ。
「バックれたんだ?」
「バックれてねぇだろ。現にこーして、ちゃんと戻ってきてやってんだからよ」
もっとも、この協調性ゼロの男がその場に残ったところで出来ることは少なかっただろうし(何ならいない方がマシ?)、浮く予感しかしないのでそこは責めるつもりもそんなにないが。
察するに思ったより大ごとになってしまって、レドックスもそこそこテンパっていたのだろう。それでオロオロソワソワ、アルメリアが起きるまで付近をずっと彷徨い歩いていたものと思われる。
その最中、街中でたまたま目に留まったのか、思い付いたのかは定かでないが。見舞いの品に肥料を見繕ったと、大体そのあたりだろうか。
ともあれ、振り回された感や徒労感は拭えないにしろ。
「はいはい。まぁひとまず、これは受け取っておきます。ありがとうね、レド」
「……けっ」
肥料のパッケージをパムパムやって、まずはそのなけなしのお礼から伝えるアルメリアだった。




