110.「」
もう敵意はない――。
最終的にしろアルメリアは、ジルクリフのその言葉を偽りないものとして受け止めることにする。
ライナルトが上手くやってくれたのだろう。
マンドラゴラというワードに触れない範囲で、彼もすでにおよその事情は把握していたからだ。
「わかりました。あなたを信用し、謝罪の弁を受け入れます」
「本当か?」
「はい」
「本当だろうな」
「なんでそんなに疑うんです?」
せっかくそうと表明したのに、繰り返し念を押されたときは、いささか面倒にも感じたけれど。
『もしできればなんだが、アイツの……ジルのことも大目に見てやってくれないか。アイツもきっと、必死だったんだ』
以前にライナルトから、そう酌量を求められていたのもあったので。
「たしかにあなたが私にした仕打ちを思えば――通り魔然とした猟奇的犯行を思えば、これで手打ちなのも納得いかないけど……」
「誰が通り魔だ……」
「あなたです。まぁ仕方ないでしょう。もともと私たちには敵対する理由なんてなかった。ただお互いのことをよく知らなくて、知り合う機会や余裕もなくて、ずっとすれ違っちゃっていただけなんですから。そうでしょう?」
「…………」
「それが分かったから。あなたの言葉からちゃんと伝わったから、謝罪を受け入れると言いました。私、何かおかしなこと言ってます?」
この短時間で似たような問いかけがすでに三度目のことになる。
だがやはり、彼は何も答えなかった。
なのでもう、しんみりするのはこのくらいにしたいと思う。
「ということで、話は終わりですね。なお、こないだ申し上げたことも包み隠さず真実ですから、悪しからずご了承いただけますように」
「こないだ……?」
「あら? ひょっとしてもう忘れちゃったんですか。言ったじゃないですか、あなたと弟さんが本当にそっくりだって」
「なっ……!?」
「では、おやすみなさい」
言い返する間を与えず、バタン。
さっさと扉を閉め、強制終了に打って出るアルメリアだった。
その後、少し沈黙を挟んで。
「そんなことあるものかっ!」
扉の向こうから、噛みつくような負け惜しみが響いてくる。
いろいろスッキリさせてもらいつつ、ウフフ。
ご満悦でいたところ。
「……何かあれば言え。力を貸す。理由も問わん、かもしれん」
最後にそう、小さく声があった。
やがてツカツカと足音が遠ざかっていく。
(理由は聞かないかもって、なにそれ……?)
力を貸すかもしれない、ならまぁ分かる。
留保するところが間違ってないかとも、少し思ったが。
(ま、いっか)
あまりに気にも留めず、踵を返す。
そのまま部屋の窓を抜けて、外に出た。
ここはきっと良い病室なのだろう。
優雅に夜風にあたれる感じの、オシャレなバルコニーが備え付けられているのだが。アルメリアがそうしたのは、べつにそうしたい気分になったからとかではない。
もっと別の用向きだ。
というのもジルクリフの対応に出るまえ、迷ったからになる。
どっちからいこうかなと。
結果、先にこっちと選んだのがジルクリフの方だった。
たぶん短く済むとしたら、そっちかなと判断で。
(まぁ結局、思ったより時間はかかっちゃったけど……)
やっと終わったので、もう一つの対応に出てきたというわけ。
故にアルメリアは呼びかけるのだった。
「で、いつまでそこでそうしてるつもりなの?」
夜の景色を眺めるようにしつつ、屋根の上へやや非難がましい目を向けて。
「レド」
「…………」
どこかバツの悪そうな顔で、ずっとそこに胡座で居座っていたらしい彼に。




