109.「」
「なぜ……」
「はい?」
「なぜ俺がここにいるとわかった?」
「だって、さっきライナルトさんが誰か連れてくるって言ってましたし。どうせあなたのことだろうなって」
「どうせだと……」
「そしたらドアの前で気配が止まったんですよ。ピタって。そのままいつまでも動かないで、ジッとしてて。怖いじゃないですか。もし外にいるのが本当にあなただとしたら、尚さら。それで確かめにきました」
「おまえは俺を何だと思っている?」
「逆に聞きたいですけど、何と思われてると思ってるんです? まさか安心して近くに身を置ける相手だとでも?」
「それは……」
「これくらいの警戒はされて当然でしょう。むしろ足りないくらいです。私からすればほとんど通り魔か凶悪犯みたいなものですからね、あなた。今だって正直、怖いくらいですけど」
「…………」
「私なにか、理不尽なこと言ってます?」
久しぶりとなる対面はそんな掛け合いから始まった。
少し畳みかけ過ぎてしまったか、ジルクリフは次第に口数を減らし、ついには黙り込んでしまう。
「……倒れたと聞いていたが、思った以上に元気そうで何よりだ」
「おかげ様でどーも」
本音を言えば、このままそっ閉じしてしまいたい節もなくはないが。
「それで、何の用です?」
用向きだけでも仕方なく尋ねたところ、なんと。
なんとその手が、腰に刺された銀剣の柄にゆっくりと伸びて。
(うそでしょ……!? まさか本当にここで……!?)
一瞬、息を呑むほどに慌てたが。
ジルクリフはすぐに低く言った。
「違う。もうおまえと事を構えるつもりはない。これはただ、証明のためだ……」
そして示される。
ジルクリフがその柄をグッと強く握り込んでなお、銀剣アルシャジオが鞘から抜けず、留まったままでいるその様が。
「え……? 抜け、ない……?」
「もう決して、おまえに刃を向けはしない。それがアルシャジオの意思ということだ。俺自身の答えでもある」
そのうえでひとつ、深く息をつくと。
静かに頭を垂れ、覚悟を固めたようにジルクリフはその謝意を表明するのだった。
「アルメリア・リーフレット。おまえに不当な嫌疑をかけてしまったことを謝罪する。本当に済まなかった」
◆
それから少しだけ、ジルクリフと話をした。
「それ、本当に抜けないんです? 単に一人で勝手にプルプルして、そう見せかけてるだけとかじゃ……」
「そんな暇なことをするか」
まず疑ったのは、ジルクリフが一人芝居を打っているだけという線だ。
すると彼は「まだ疑うか、仕方ない」とも言いたげな顔になって、さらに力を込めて引き抜こうとする。
今度は数センチほど白刃が見えた。
でもたちまち刀全体が堪えるように、カタカタと小刻みに震え出して。
まるで強力な電磁石でもついているかのように、またキッチリと鞘に収まってしまう。
「ほぅ」
「これでどうだ」
「いや、どうと言われても……。丸っきりさっきのリプレイじゃないですか。あまり証明になってない気が」
「ではどうすればいい!?」
理不尽なことだった。
いくら力加減を変えたところで、それがパントマイムでない証明にはならない。だから疑っているだけなのに。
「失うのは一瞬、でも取り戻すには長い時間がかかる。信用ってそういうものだと思うのですが……」
「…………」
「私、何かおかしなこと言ってます?」
返答はない。
しかし今の実演が、物理的にちょっとおかしかったのも事実ではある。
これ以上食ってかかるのは、こちらの片意地が悪いというものだろう。
(それに……)
そのときアルメリアの胸に去来した感情は、ライナルトにすべてを打ち明けたときとも同じだ。こちらとしても、ジルクリフに謝罪すべき点はある。
だから――。
「ライナルトさんからどこまで聞いてます?」
その切り出しから、彼と少しだけ言葉を交わしたのだ。




