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108.「」


 病室でアルメリアが目を覚ましたのは、少しまえのことだ。


 頭からお酒をかぶって倒れたのが、ついこないだのことなのに。

 数日と経たずまた同じ部屋に運び込まれてしまったらしい。


 ギルダとスーランが介抱してくれたのは覚えていて、どうしてそうなったかも何となく察しはついたが。


「なんだかなぁ……」


 トホホとなっていたところ、コンコンとノック。


「よっ、無事に目が覚めたみたいだな。アルさん」


 気さくな声がけとともに、部屋に入ってきたのがライナルトだ。


「なんか、すごい見覚えのある構図……」

「奇遇だな。ちょうど俺もそう思ってたとこだよ」

「でも今度は手錠がないみたいでひと安心です」

「そりゃ信頼の証さ。なんだかんだ言ってなんだかんだの付き合いになってきたからな、俺たちも。いや、だからって逃げないでくれよ? というか、そろそろ少しくらいは俺を信用してくれてもいいんじゃないか?」

「そうですね。持ち帰り、検討します。では、お世話になりました」

「いやいやいやいや」


 軽い事情聴取はまぬがれなかった。

 何があったか、とりあえず事実ベースで明かすことにはなる。


 背負っていたリュックを取ってもらい。


「原因はこれです」


 言いながらアルメリアが取り出したのは、スプレー型やグレネード型といった各種アイテム――いずれも除草剤だ。


「これは……」


 とりわけグレネード型――手のひらサイズに収まる球体にはライナルトもよくよく見覚えがあったのだろう。


 手に取り、不可解そうにする。

 それはそうだ。

 なにせそれは"とある目的"のために開発された、燻煙くんえんタイプの魔道具なのだから。


「しかし、なぜ今さらこんなものを……?」


 その疑問も当然ではあるが。

 迷った末にアルメリアは決めた。


(話すにしても、確証を掴んでからにするつもりだったけど……)


 内容が内容なので、先にライナルトだけでもその可能性について打ち明けておくことを。


 ちょっとここで脱線はあったが――。

 話を本題に戻すと、こういうことだ。


 今日アルメリアはある調査のため、これら除草剤を手に森の奥深くに踏み込んでいた。


「用心のつもりで一応、いろいろなタイプを持っていったんです。レドも一緒だったんですが……」


 つまり、そのうちスプレータイプのものが。


「私にかかっちゃったんですよね」



 ◆



 いろいろあって持ち合わせていた除草剤(スプレー型)を誤噴射し、自分にかけてしまった。要するにそのオマヌケ展開こそが、今回アルメリアがギルドに担ぎ込まれるハメとなった原因である。


 アルメリアはかつて、ムシウルを市販の殺虫剤で弱らせたことがあったが……。まぁ理屈としてはそれと同じだ。アルメリアにとって除草剤の危険性は常人の比ではない。


 ちなみにそのとき、レドックスも一緒だったのだが。

 察するに、ぐったりするアルメリアをまえにどう処置していいか分からなかったのだろう。


「なるほど、それで君の友人たちに預けられたというわけか」

「たぶん……」


 とくに申し訳が立たないのはスーランだ。

 きっとさぞ驚かせてしまったに違いない。


 なにせ店番がてら、しゃっしゃと掃き掃除をしていたところ、そこにヌッと現れたのがレドックスだったというのだから。おまけにろくな説明もなく、担いだアルメリアをほぼ置き去りである。


 「何とかしろ」といきなり丸投げされて……。

 どれほど慌てふためかせてしまったことか知れない。


「ギルダがいてくれて助かったけど……」


 ため息しか出なかった。

 とりあえず二人には心配ないと伝えて、今日のところは帰ってもらったそうだが。


「もう。明日、二人になんて説明したら……」

「道端の毒キノコでも食べたことにするか?」

「ヤですよ。なんで私がそんな食いしん坊キャラみたくならないといけないんですか。しかもよりによってポーション屋ですよ、私」

「それもそうか」


 それでまぁ、アレルギーということになった。

 ギルダもそのように見立てていたらしいので。


「でも、私とレドの関係については?」

「俺がたまたま君宛ての用事で、自宅までレドにお遣いを頼んだ。そんなところでどうだ?」


 ぶっちゃけイマイチだが。

 他にいいのも思いつかず、そういうことになる。

 理由を聞いて満足したか。


「じゃあ、とりあえず無事も確認できたことだし、俺は行くよ。さっきの件もありがとな。一応、気には留めておく」


 ライナルトは間もなく席を立つ。


「ええ、そうしてもらえると。さて、では私も」


 アルメリアもそれにならおうとしたのだが。


「おいおい、本当に今から帰るつもりなのか? 今日はもうこのまま休んでけよ、外だって暗いし。着替えだってほら、さっきあの子たちが持ってきてくれたんだぞ」

「なんと……」

「それにそうだ、会わせたい奴もいるしな。ちょっと待っててくれ、すぐ連れてくるから」


 引き留められるとともに、そんなことを言いながらほがらかに行ってしまった。


「会わせたい奴……?」


 あまりいい予感もしなかったが。

 予想は的中らしい。


 いくら待っても来ないし、なんかドアの向こうにソワソワ落ち着かない気配を感じるなと思って確かめたら、やっぱり。


「気が散ってゆっくりできないんですけど」


 そこにいたのはジルクリフで。

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