104.「」
というわけで――。
結局その任を託されたのが、アルメリアだった。
折りいって頼みがあると言われ、何だろうとギルドまで足を運んでみれば。
「これは先日、王都から取り寄せた魔道具で、"従魔の首輪"と呼ばれている品なのだが」
から始まって、うんぬんかんぬん。
ともかくこれを何とかしてレドックスに装着させたいとのこと。
事情はよく知っているし、必要な処置であることも理解できるが。
シンプルな疑問が1つ。
「話はわかりましたけれど……どうしてわざわざ私なんです? 普通にライナルトさんからお願いするんじゃダメなんですか?」
聞いてはみたが。
まぁ想像に難くない。
「そうしたいのは山々なんだが。昔から俺の言うことなんか全然聞かなくってな、アイツ」
「だったら、もう1人いるじゃないですか」
「尚さらダメだろうな」
「……でしょうね。そこは聞く前からわかってましたけれど」
ため息。
「ほかに仲のいい冒険者の人とかいないんですか?」
「聞いたことないな。むしろ心当たりがあれば教えて欲しいくらいだ」
「私もないです。もう、友だちくらい作ればいいのに」
「たぶん人付き合いに興味がないんだよ」
沈黙。
「……というわけなんだ」
締め括られてしまった。
「……頼めない、だろうか?」
そんなわけで。
「わかりました、いったん引き受けます。やるだけやってみますが、あまり期待はしないでくださいね」
「すまん、助かるっ!」
そういうことになった。
ライナルトは申し訳なさそうに両手をパチンとやって。
「もう、なんで私が……」
部屋を出てから、トボトボ。
思わずそう零してしまったけれど。
仕方ないかとも思い直す。
(レドがああなっちゃったのは、一部私のせいでもあるわけだし……。ま、やるだけやってみましょうか)
気を取り直し、向かったのはギルドの一室だ。
すでにレドックスは呼び出してあって、待たせてあるというので。
道すがら作戦を立てた。
(正直私の言うことにしたって、素直に聞くとは思えないのよね……)
ジャラリ。
千切れたチェーン付きの首輪を改めて持ち上げてみれば地味に重い。
(わりとしっかり目のダンベルくらいありそうだけど)
はてさて。
(これをどうやってレドに……?)
あまり成功のビジョンも見えなかったが。
とりあえずコンコンとノックして入室すれば、そこにちゃんとレドックスはいた。
ソファで両腕を広げるようにして、グデっとくつろいでいる。
「あぁ? なんだ、ピィスケか。何してんだ?」
「ライナルトさんに呼ばれてだけど。レドこそどうしたの?」
「同じだよ。ったく、あの野郎。真っ昼間から何の用だ。こっちは忙しいってのに」
「大して何もしてないでしょうが」
テキトーにやり取りを交わしつつ、窓の外を眺めるフリをしてレドックスの背後に回る。
ガラ空きの後頭部を見下ろし、思った。
チャンス。やるなら今なのではないかと。
というのも首輪をつけるうえで最大の難関は、身長差だからだ。
レドックスは背が高く、アルメリアでは背伸びをしなければ首に手が届かない。
でも今、レドックスは座っている。
ダリィみたいな感じで首をコキコキ鳴らしている。
警戒されていない。
(今だ……!)
「レド、ちょっと動かないでね」
「あ?」
こうなったら駆け引きなし。
一気に勝負をかけにいくアルメリアだった。
えいやと腕のわっかをスポッとレドックスの頭に被せて、そのまま流れるような所作でガチャリと首輪にロックまでかけてしまう。
「なんだこりゃ?」
気付いたときにはもう遅い。
フフンとドヤ顔。
腕組みをし、得意げにで胸を反らした。
「やってやったわ。私の手にかかればこんなものなんだから」
これにてミッション完了――かに思われたのだが。
その後、まさかの事態に見舞われる。
付けたはずの首輪が、なんと外れてしまったのだ。
「外せ……」
それまでレドックスはたいそうご立腹だった。
ライナルトにいっぱい食わされたと知るなり、ゆらりと立ち上がる。
「首輪プレイなんざヘンタイのするこっだろうが。俺の趣味じゃねぇんだよ……もっとも、やってやる分には構わねぇがな」
言っていることはともかくとして。
思わず息を呑んでしまうほどに、めいっぱいスゴまれた。
見下ろすギラついた眼はまさしく野獣のそれだったが、こればかりはアルメリアも譲歩するわけにはいかない。
「あのね、レド。私だって、できればこんなことしたくはないけれど……。仕方ないでしょ、必要なことなんだから」
「俺の要る要らねぇを勝手に決めつけてんじゃねぇよ。だいたいオメェの血ィ飲んでりゃトーブンは問題ねぇって、そういう話だったろうが」
「そうだけど……そうは言っても、私も心配だし。お兄さんたちの気持ちも分かってあげようよ。――ね?」
物怖じせず、なんとか宥めようとしたのだが。
「よぉピィスケ。俺だって聖人じゃねぇ、ガマンにも限界ってモンがあんぜ? 仏の顔も三度までだ」
「初回と二度目がどこにあったのかわからない」
「これがラストチャンスだ、今すぐコイツを外せ! さもねぇと……!」
「さもないと?」
「いまここでブチ犯すッ!!!」
本当に……。
大声でなんてことを言ってくれるのか。
これ以上は騒ぎを大きくしてしまうかもしれない。
(仕方ない……)
なのでアルメリアも方針を変えた。
「レド、座って」
こうなったら力づくだ。
さっそく首輪の力を使って、命令する。
「ぐ、お……ッ!?」
するとどうだろう。
まるで重力が増えたみたいにレドックスの膝がガクガクとなって、本当に腰を下ろしたではないか。
「あ、足は崩していいよ」
「ピィスケ、テメェ調子こいてんじゃ……ッ!」
「もう! 大きな声も禁止!」
「ッ…………」
「すごいわね、これ」
あまりの性能にちょっと感動してしまう。
それでまぁ、抑えきれなかった。
「お手!」
「おかわり!」
「ハイタッチ!」
「ちょうだい!」
ついやってしまったのだ。
夢中になって、ホイホイと。
どんなに牙を剥いてくる番犬だろうと、絶対に噛みつかれないと分かっているなら可愛いものだ。
手を取って、せっせっせーのと戯れる。
「えらーいっ! お利口さんだね!」
よしよしして、またグギギと牙を剥かれて。
気付けばちょっと、顔がマジギレしてるっぽかった。
「……あ、ごめんねレド。つい、もうやめるから」
いい加減、終わりにしなくちゃと思ったそのときだ。
ガチャン。
まるで負荷に耐えきれなくなったかのように、修羅の形相となっていたレドックスの首元から、首輪の留め具が弾ける。
ガシャン。
それはもう物々しく外れ、目のまえで落ちたのだ。




