策士、策に溺れる
13話の日付を間違えていたため修正しました。
『2週間』ではなく『1週間』でした、申し訳ありませんでした。
「それにしても、あなたに声をかけるなんて、よっぽど好き物のやつね」
「はい?」
美人巫女さんに神官長室へと導かれながら歩いていると、彼女はため息をつきながら話しかけてきた。私のいた所と神官長室まで結構距離があるみたいだ。私が歩いていたところは神官長室の反対側だったらしい。案内がいて本当に助かった。
「あなた、顔は可愛いけれど、体型はちょっと、その、物足りないもの。巫女服の上からでも分かるって相当よ」
「…………」
これはだなぁ、これはさらしとタオルで男性らしい体格を作ってるだけだからなぁ、本当は脱いだら凄いんだからな!! 誰もがうらやむダイナマイトボディなんだから!!……多分、きっと、数年後には。
私が静かに黒いオーラを発しているのに気が付いたのか、美人巫女さんはフォローするように言葉を続けた。
「でも、顔はとっても可愛いもの。よく気を付けるのよ! 聖職者ってお稚児趣味のやつも結構いるみたいだし。………あ、神官長室に着いたわ。私がフォローするけど、ちゃんと証言するのよ」
フォローになってない!
++++
「突然申し訳ありません、神官長様。至急お耳に入れたいことがございまして、お忙しいところ恐れ入りますがお時間いただけますでしょうか」
美人巫女さんにならって跪拝し、顔を伏せる。まずは美人巫女さんが話してくれるみたいなので、黙って話すべきことをまとめていた。
「ええ、構いませんよ。あなたがそこまで言うなんてよっぽどのことなんでしょう。そちらの見習いさんのことですね」
神官長は優しそうな老女だった。普通、神官といえば男性の神職を表すのだが、女神を祀る神殿のみ例外的に、神官長は女性が就く。ここ月の神殿でも同じく、最も高位の巫女が神官長を務めているようだ。私が神官長を観察していると美人巫女さんに小突かれた。話せと言いたいらしい。
「あ、あの、お話しの前にお人払いをお願いできますでしょうか…?」
「……私からもお願い致します!」
私の図々しい願いにも、美人巫女さんは賛同してくれる。意図は全く違うだろうが。心遣いを踏みにじってしまうことに少々罪悪感を持ちつつ、神官長と美人巫女さんと私の3人だけになる機会を待った。
「では、改めて自己紹介をさせていただきます。お会いするのは年始の式典以来でしょうか」
「な、なにを?」
前に進みながら巫女服を脱ぎ始める。美人巫女さんが狂人を見る目で見つめてくるが、止められる前に巫女服とベールを脱ぎ捨てた。
「お久しぶりです、神官長殿。フランシス・ロワ・マーレインと申します」
「お、王太子様……!?」
驚愕する2人の前で颯爽と名乗りを上げる。いやぁ、ここで誰?とか言われなくて良かったー。
「な、何故王太子様がこんなところに? しかも女装までして!?」
美人巫女さんはまだ呆けていたが、立ち直りの早い神官長に問いただされた。でもまだショックが大きいのか、今にも椅子からずり落ちそうだ。手で座り直すよう促した。
「それはもちろん、人目を偲ぶ理由があるからですよ。先日のトロール退治の折、数々の不思議に直面しましたが、僕の元には未だ何の報告もなく。問い合わせにも無しの礫でして」
「……それはまだ解明されていないだけでは?」
「そうなのですか、神官長殿?」
「え?」
「いえ、僕が得た情報ですと、退治の際に持ち帰った遺体や虜囚はこの神殿に収容されたと聞いたので。ですからわざわざ尋ねてきたのですよ。しかし、今のお答えはまるで他人事のようだ」
「………………」
「うーん、虜囚がこの神殿に入った確かな証拠はあるのですが、神官長殿が知らないとなると、もしかしたらあなたの部下たちや部外者が勝手にやっているのかもしれない。そうなると困ったなぁ、あなたの神殿を汚すような行いが神官長殿の知らないところで起きているのかもしれません。それはいけない。僕も見過ごす訳にはいきません。すぐに騎士団達に話して…」
「神官長様……」
「はぁー、殿下も困った方ですね」
神官長は駄々っ子を見るような目でこちらを見ていた。ため息の後、やれやれと言ったように手で顔を覆う。
「秘匿されるものなら、されるだけの理由と備えがあるとお分かりでしょうに。それに今のところ、捕まるような行いをしているのは殿下だけですよ」
「簡単に捕まるような腕でもないので」
と言って神官長室の窓を、逃走口とするかのように意味ありげに見た。平屋建てだから行けると思うけど。しかし、ほとんどはったりと虚勢なので、冷や汗ダラダラである。
「………分かりました。殿下の情熱と蛮勇に免じて、情報を開示致しましょう。しばらくお待ちください。この件に一番詳しい者を呼んで参ります」
そう言って神官長は美人巫女さんを手招きすると、何やら耳打ちする。すると美人巫女さんは矢のようにどちらかへ行ってしまった。
「できれば僕の女装のことも黙って欲しいんですけど」
「言いませんよ。我が神殿の警備がザルだと喧伝するようなものですから。……それにしても、可憐な巫女振りでしたね」
「いやー、それほどでも…」
「わたくし、一度も褒めておりませんよ」
++++
半刻ほど待っていただろうか。神官長が執務をこなしている傍でお茶をいただき、月餅とかいう変わったお茶菓子に舌鼓を打っていると、ノックの音が聞こえてきた。
「失礼します、神官長様。ただ今戻りました」
「お待ちしておりました。どうぞお入りください」
お菓子とお茶を遠ざけて居住まいを正す。案内役の美人巫女さんの後ろから現れたのは、意外な人だった。
陛下によく似ているがもっと若く整った顔立ち、陛下より豊かな御髪、陛下より長身で程よく筋肉のついた体躯。
「…………え"っ!!」
「久しぶりだな、フラン。相変わらずやんちゃしてるみたいだね、他所様に迷惑かけるなんてダメじゃないか」
「お、王弟殿下……」
「ここは非公式の場なんだから、叔父様と呼んで欲しいなぁ」
王と不仲が噂され、前王太子のクリストフ殿下を暗殺したとひっそりと疑われている王弟殿下、その人が何故か笑顔で私の前に立っていた。なんかやたらフレンドリーだ。
え、これ私、ここで暗殺されちゃうパターンですか?
「そんなにあからさまに怯えた顔しないで欲しいなぁ。傷つくじゃないか。………神官長殿。身内の者がお仕事を邪魔して申し訳無かったね。どこか応接室とか借りられるかな?」
「とんでもありません。こちらこそ、卿にお時間を割いていただき助かります。隣の部屋をどうぞお使いくださいませ」
「ありがとう。………ほら、行くぞ! フラン。いつまで腑抜けてるんだ。ご迷惑かけたんだから、神官長殿にちゃんと挨拶しなさい」
「こ、今回は本当に申し訳ありませんでした…」
「いえ、近頃度肝を抜かされるようなことなんてとんとありませんでしたから。ある意味では楽しかったですよ。でも次は、正殿からの参拝をお待ちしております」
「はい……」
ズルズルと王弟殿下に引きずられるようにして応接室に落ち着く。お茶とお菓子を用意していると、にこにこと微笑ましいものを見るような王弟殿下の視線を感じた。……この人、こんなキャラなんだっけ。式典以外で顔を合わせたことないからわかんないけど、何故こんなにフレンドリーなんだ。
「あの、おうて…コホンッ、叔父様はどうしてこちらに?」
王弟と呼ぼうとした途端無言の圧力をかけられたので、慌てて言い直すと、王弟殿下は上機嫌で私のお茶を一口飲んだ。
「そりゃもちろん、トロールの一件で私よりも詳しい者はいないからね。その件でこんな真似したんだろう?」
「えっ!?」
改めて王弟殿下をよく見ると、彼は私的な装いではあるものの、首から特徴的な印を提げていた。煌びやかな金の大きな鍵で、トップには緑色の王冠ーマーレイン王国のシンボルーがくっついている。金の鍵は、宗教的な権威のシンボルのはずだ。…ということは、
「私は大常卿、全ての神殿、神官たちのトップだ。知らなかったとは、まだ政務に出る前とはいえ不勉強だね、フラン。さ、聞きたいことは何かな?」




