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お嬢様の恋路をサポートしていたら、ライバル家のメイドと恋が始まりました  作者: 有明海


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9 執事とメイドのイベントマネージメント

「――本日から、使用人科の専門選択科目『イベントマネージメント』の講義を始めます」


教壇に立つ女性教官の、どこか歯切れの悪い声が静かな教室に響いた。


それもそのはず、広い教室の机に座っているのは、星原悠斗と富士見瑠衣のたった二人だけ。この科目は、要求される専門知識の多さから入学したての一年生が、選択するようなものではない。


だが、悠斗たちにとっては、これ以上ないほど任務(密談)のために都合が良い環境だった。


教官は手元の資料に視線を落とし、眉を寄せた。


「六月に行われる学園の歓迎パーティの計画立案……。本来なら、班を組んで、一区間の運営を任せる予定だったのだけど。……流石にこの人数では、厳しい。これは困ったわね……」

教官の言葉に、すかさず瑠衣が手を挙げた。


「それは、何ら問題ないかと存じます」


「え?」


「私は日ノ内、隣の彼は月若です。幼少の折より主人に随行する形で、社交界や大規模な晩餐会を裏で支えてまいりました。現場での経験値という意味では、何ら問題ございません」


「ええ、私も問題ございませんよ」


瑠衣の言葉を引き継ぐように、悠斗もまた答える。


「それに、今年度の生徒の中では、私たち二人が一番適任かと。正直他の生徒が入るより、私たち二人で回した方がよほど効率的です」


「そ、そうかもだけど……」


先生は気圧されながらも、視線を下げる。


「……その、月若と日ノ内が『ペア』を組んで一つのイベントを運営するというのは、世間的にも、学園的にも色々と障壁があるというか……」


教官が躊躇するのも当然だった。


「これは学園の授業です。もし、このような公の場で私的な感情を優先し、協力もせずに歪み合っていた場合……日ノ内の名前に泥を塗ることになりますからね」


「……っ」


「こちらも同じです。それにお嬢様にここで手伝わないといった場合怒られてしまいます」


「わ、分かったわ……。そこまで言うなら、今年の歓迎パーティのメインエリアの運営は、あなたたち二人に一任します。……過去資料を持ってくるから待ってて」


二人。いつもは、気まずいと思っていたこの二人の空間もだいぶ慣れてきた。


「メインエリアの運営ですか……。いつもはお嬢様の後ろに控えて、言われたことに対応するのが仕事ですからね。イベントをイチから『運営』するというのは、実は初めてです」


「私も晩餐会での配膳や、事前のセキュリティチェックなどの経験はありますが……。全体を統括するような、しっかりとした運営の経験はありませんね」


「……なるほど」


悠斗は思わず、手元のプリントを見つめたまま固まった。


(二人とも未経験なのか。まぁ、なんとかなるか……?)


帰ってから月若の執事長や、他のベテラン使用人たちに頭を下げてノウハウを聞けば、形にはなるだろう。この資料と過去資料にあわせ、月若の資料も参考にするかと考えていると思わぬことが頭によぎる。


「これ私達二人がしきることが、お嬢様達にばれたら……」


「確実にイチャイチャタイムをご所望されますね」


口に出した瞬間、悠斗の頭の中には悪い笑顔の二人の男女の顔が浮かんだ。


『二人で、メインエリアの運営? いいわね。なら私達が上手く密会できるように、裏回ししなさいよ』


『確かに名案だね。僕もおめかしした華凛とイチャイチャしたいし』


そんな主たちの無邪気な声が脳内に再生される。今後の学校行事のすべてにおいて、同じような無茶振りが待っているのは火を見るより明らかだった。


「今後は、日常デート各学校行事、そしてイチャイチャ場所の確保。やはり大変ですねお二人の関係を守り通すのは」


「はははぁ……。あぁきっつーーーー」


「星原さん、そこでご提案がございます」


「は、はい。なんでしょう」


改まったトーンに、悠斗の背筋がわずかに伸びた。


「ここから六月の歓迎パーティーまで、毎晩電話し合いましょう。昨晩はたまにと言いましたが、変更しましょう」


「――え?」


「任務まで立て込みすぎています。トークルームでのやり取りだけでは、齟齬が生まれます。電話を通して、しっかり情報の伝達をするべきです」


(毎晩……寝る前に……電話……!?)


彼女の言い分は正しい。このままいけばどこかで連携がいかず、小さなミスをする可能性すらある。それは分かっている。分かっているのだが。いかんせん悠斗も女性慣れしていない。確かに華凛とずっといるのでそれなりの対応はできるが……


「……ダメ、でしょうか」


「あ、いや、ダメじゃない! やろう、ミーティング」


思わずいつもの敬語も外れた。でもそれくらい悠斗にとっては経験のないことなのだ。


そこへ、廊下からバタバタと足音が近づき、教室のドアが勢いよく開いた。


「ごめんなさい、お待たせしまし――って、大丈夫!? 星原君、もの凄く顔が赤いけど!?」


「えっと……少し熱いかもしれませんね」


先生は慌ててファイルを机に置くと、ガラガラと大急ぎで後ろの窓を開けに走っていった。

トントン、と机の下で、瑠衣の指先が悠斗の袖口を小さく叩いた。


釣られるようにして隣を見ると、瑠衣は窓の外を眺める教官の背中を見つめたまま、微動だにしない。だけど、誰にも聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。


「……星原さん。使用人同士だけでなく、初めてできた友達として、改めてよろしくお願いしますね」


「――っ、こちらこそ、よろしくお願いします」


風の音に紛れるような小声で、悠斗はそう返すのが精一杯だった。

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