相棒(マブ)
一方、帝国将軍シルヴィアは、かつてない速度で軍を動かしていた。愛馬を飛ばし、砂塵を巻き上げながら魔王領へと爆走する。
「全軍、突撃ィ! あの……あのポジティブ馬鹿を救出する! 1秒でも遅れた者は万死に値すると思え!」
背後に続くのは、ラインストーンでデコられた鎧を輝かせ、槍にフワフワの羽をつけた兵士たちだ。見た目は完全に「パリピ集団」だが、その進軍速度は帝国史上最速を記録していた。
「閣下! ユア殿から魔法通信がありました! 『魔王城の裏口、鍵かかってなくて草。防犯意識低すぎワロタ』とのことです!」
副官ゼクスの報告に、シルヴィアは額に青筋を浮かべながら叫んだ。
「よし、裏口から奇襲をかける! 緻密な戦術と迅速な制圧こそが、あの危機感ゼロの女を救う唯一の手段だ! 行くぞ!」
緻密な戦術(裏口からの不法侵入)により、帝国軍は驚異的なスピードで魔王城の心臓部へと到達した。シルヴィアは重厚な玉座の間の扉を、渾身の力で蹴破った。
「ユア! 無事か! 魔王、覚悟……っ!?」
剣を抜き放ち、戦場を統べる峻厳な声を響かせたシルヴィアだったが、その視界に飛び込んできた光景に言葉を失った。
そこには、禍々しい玉座に並んで座り、スマホの画面を覗き込むユアと魔王アバドンの姿があった。
「あ、ヴィーちゃん! おっそーい! 今、魔王様に最新の自撮りアプリ教えてあげてたんだー。見て、この『ネズミ耳フィルター』超ウケるでしょ?」
画面の中では、数千年の時を生きる冥府の王に、可愛らしいピンクのネズミの耳とヒゲが生えていた。
魔王はといえば、ネズミ耳を付けたまま殊勝な面持ちで頷いている。
「……シ、シルヴィア将軍か。この娘の言う『盛れる』という概念……深淵なる魔術にも通ずる理があるようだ……」
「…………(詰んだ。私の、私のこれまでの騎士道が完全に詰んだ)」
シルヴィアは、静かに剣を収めようとした。しかし、異変はそこで起きた。
「魔王様が毒婦に洗脳されたぞ! その女を殺せ!」
主君の変わり果てた姿に正気を失った魔王の側近たちが、殺意を剥き出しにしてユアへ襲いかかったのだ。
「ユア!!」
体が勝手に動いていた。シルヴィアは反射的にユアの前へ飛び出し、手にした盾で鋭い爪を弾き飛ばした。デコられた鎧であっても、その動きは帝国最強の騎士そのもの。凛々しき甲冑の背中が、ユアの視界を覆う。
「私の……私の相棒に、指一本触れさせんと言ったはずだ!」
「きゃー! ヴィーちゃん、マジ王子様! 抱いて! 超リスペクトなんだけど!!」
シルヴィアの神速の剣技と、ユアがスマホから最大音量で流した「魔族の精神を逆撫でする爆音(EDM)」のコンビネーション。視覚と聴覚を同時に破壊された側近たちは、一瞬で鎮圧された。
魔王もその光景に、「……お前たち、マジ無敵だな」と、もはや感心を通り越して苦笑いするしかなかった。
騒動が収まり、ユアは無傷で(ちゃっかり魔王と連絡先を交換して)帰還の途についた。
夕刻、揺れる馬車の中。シルヴィアは隣で「リアル魔王様とのツーショ、マジ神だわー」とはしゃぐユアを盗み見ていた。
(……相棒、か)
先ほど、無意識に口に出した言葉が胸の内で反芻される。
自分は、この自分勝手で、派手で、軍紀を破壊し尽くす少女を、いつの間にか唯一無二のパートナーだと認めてつつあることに、気づいたのであった。




