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マジ無敵?

 隣国との長年にわたる血なまぐさい紛争が終わり、国境の砦には待望の「平和」が訪れていた。しかし、その光景はかつての鉄血を誇った帝国軍のそれとは、あまりにかけ離れていた。


「お疲れ様でーす! 今日の訓練、マジでエグくね? 完全に詰んだわー」

「それな。てか、お前の鎧のデコ、超イイじゃん。ウケるんだけど」


 朝の朝礼。整列した兵士たちの鎧には、どこで手に入れたのかカラフルなラインストーン(偽物)が散りばめられ、無骨な槍の先端にはピンクや水色のフワフワした羽飾りが揺れている。殺伐とした鉄の匂いは、甘い果実の香りに上書きされていた。


 ゼクスは悲痛な面持ちで、キリキリと痛む胃を押さえながら上官に報告した。

「……シルヴィア閣下。軍紀が、我が帝国の軍紀が完全に死滅しました。兵士たちが……あろうことか、上官への戦況報告の最後に『知らんけど』と付けるのです……」


 帝国最強の騎士として名を馳せるシルヴィアは、ピキピキとこめかみに青筋を立て、深い溜息と共に眉間を揉んだ。

「……ユアの影響力、恐るべし。だが、兵の士気だけはかつてないほど高いのが……非常に複雑だ」


 そこへ、一人の伝令兵が血相を変えて飛び込んできた。

「ほ、報告です! ユア殿が、書き置きを残して失踪しました!」


 シルヴィアがひったくるように受け取った紙には、あどけない文字でこう記されていた。


『魔王とかマジ草。ちょっと話して仲良くなってくるわ! ビー✌️(ピースサインの絵)』


「あ、あの馬鹿……ッ!? 相手は人間の言葉が通じる存在ではないのだぞ! 万死に値する!! 全軍、直ちに追撃の準備をせよ!」

 シルヴィアの怒号が、かつてないほど「キラキラ」した砦に響き渡った。



 その頃、天を突くような禍々しい瘴気に包まれた魔王城。

 数多の勇者を屠ってきた玉座の間には、絶対的な恐怖の象徴である魔王アバドンが鎮座していた。その前に、一人の少女が場違いなほど軽やかな足取りで立っている。


「……人間の子よ。よくぞ我が城へたどり着いた。その無謀な勇気だけは認めてやろう。さぁ、絶望と共にその命を捧げ――」

「えー、ここマジで真っ暗じゃん! 電気代ケチってる系? 闇属性とか以前に、普通に視力落ちるよ?」


「……は?」

 威厳に満ちた魔王の言葉を、ユアは容赦なく遮った。彼女は怯えるどころか、ズカズカと玉座の階段を登っていく。


「てか魔王様、そのツノ! 近くで見るとマジでサンゴみたいで超綺麗! やばくない? 質感とか超エモいんだけど。ちょっと触っていい?」

「き、貴様……ツノだと……? 恐怖という感情を知らぬのか……」


「恐怖とかダルくない? 損じゃん、そんなの。それよりさ、魔王様って毎日ここで何してんの? もしかして友達いない感じ? 一人でこんな広いとこにいて、寂しくね?」


 矢継ぎ早に繰り出される質問の濁流に、数千年の時を生きた魔王の思考が停止する。ユアは物怖じせず、絶望を撒き散らすはずの魔王の隣にどっかと腰を下ろすと、魔力でフル充電されたスマホを取り出した。


「はい、チーズ! 魔王様、もっと笑って! 怖い顔してると運気逃げるよ? ほら、口角上げて!」

「……こ、こうか……?」


 困惑しきった魔王は、言われるがままに不器用な手つきで頬を押し上げた。引き攣ったその表情は、破壊神というよりは、初めての自撮りに戸惑う初心な大型モンスターのようであった。


「あー、ちょっと惜しい! もう少しこう、グイッといこうよ! 映えが足りないって!」


 瘴気渦巻く魔王城に、カシャリという能天気なシャッター音が空虚に響いた。

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